59億円に勝つ、収入1%の仕掛け
「人は慣れ親しんだものを“真実”だという」
かつてナチスの広告担当だったゲッペルスはこう話した。今では心理学の実験で「誰もが自分が慣れ親しんだものに好意を抱き、肯定する傾向がある」という研究結果もみられる。私たちは、耳にしたことがない企業の製品は不安を抱くこともあるものの、何度も目にするうちに自然と信頼するようになる。だからこそ、企業はこぞって宣伝広告を打ち、製品を知ってもらうばかりでなく、企業名を広めていく。
ところが、広告を打つには莫大な経費がかかってしまう。たとえば東証一部上場企業の4分の1の売上高平均は、およそ2500億円。そのうち広告宣伝費は売上高の約3.5%、つまり59億円ほどになる。化粧品会社などは売上高の10%を割くという。すべてはブランドイメージを維持するために必要な経費だ。とはいえ、たとえ大企業でもそんな経費を割けない場合があり、規模が小さくなるほどにそれは難しくなるだろう。
近畿大学広報部長の世耕石弘さんは「身の丈にあった広報活動をしなければいけないんです」と話す。近大の広告費は帰属収入の1%にも満たないため、いかに経費を使わずに広く認知してもらうかを考えるという。そんなケタ違いの費用対効果を挙げる手法を、連載の前回、前々回にわたってお伝えしてきた。
そして、近畿大学は“kinki”の英語名称に頭を抱えていたこともお伝えしている。発音が似ているkinkyが英語で「変態」を意味するために、世界各国の学会で失笑を買うことがあるからだ。
一見すると相関関係がなさそうな広告と大学名の変更。ところが、ここにまた宣伝価値を見出すのが近畿大学だ。広告展開のコンセプトは、大まじめながら一見ふざけて見える、こんなものだった。