ゴールを意識した授業進行

マンツーマンレッスンでは仕切りのあるオープンスペースを主に使用する。この空間が講師同士のコミュニケーションを取りやすくしているように思えた。(上)/グループクラス用の部屋として仕切りのある部屋もいくつか用意されている。(下)

結果を出すためのしかけの1つに、「コアティーチヤー制」というものがある。MBAの授業は1日50分を7コマ(1コマのみグループレッスン)であるが、そのうち2コマはこのコアティーチャーと呼ばれる講師が担当する。計6人の講師が常に連携をとって生徒の伸び具合を見てくれるのだが、特にこのコアティーチャーがその中心的な役割を果たしている。

そのコアティーチャーから、初回の授業時にある提案がされた。リクエストに書いたフォーカス項目からTOEICを外させてほしいと言うのだ。「ここまで聞く限りあなたにTOEICは必要がないように思う。その分の時間を他のことに使わせてほしい」とのこと。単純に生徒の要望に合わせて1コマだけTOEICのクラスを入れてしまうことなど簡単だ。しかし、筆者の滞在期間4週間を鑑みてこのように持ちかけてくれたのだ。確かに、体験を終えてみて、中途半端にTOEICの授業を取り入れなくてよかったと感じている。

相談の末、1日の授業構成はこのようになった

1:ビジネスイングリッシュ(セミフォーマルな会議進行、交渉、e-mail)
2:インタビュー英語 (接続詞の効果的な使い方、インタビュー実践)
3:グループレッスン(プレゼンテーション、自社紹介、業界用語)
4:時事問題 (リーディング、単語、他のレッスンで覚えた表現の実践)
5:ビジネスイングリッシュ(決まり文句の実践)
6:日常会話(クレーム、パーティートーク、褒める表現、会話実践、など)
7:スピーチコミュニケーション(s、th、sh、イントネーション、強調法)

このように、プログラムはそれぞれの「目的」と「滞在できる期間」に基づいて考え込まれたものであり、生徒同士でコミュニケーションをすればするほどにそのことが分かった。徹底的なヒアリングにより、生徒によって内容や順序が大きく異なっているのだ。

例えば、7時限目の「スピーチコミュニケーション」という授業を例にとってみよう。これはつまり、「発音レッスン」のことだ。多くの学校で発音を学ぶ場合、日本人が不得意とするR、Lからスタートするか、もしくは母音から始めることが多いだろう。しかし、MBAでは違う。さまざまな先生へのヒアリングに基づき、「最も聞き違いを起こす懸念のある音」からはじめる。言いかえると、生徒が滞在できる期間中に「もっとも英語の質が上がる方法を探す」のだ。結果、私のケースでは「s、th、sh」から修正されることになった。

2週間が過ぎ、いくつかの発音修正が済んだあとには、こんなふうに言われた。

「RやLの音はできている時とできていない時がある。あと私が使える時間は2週間だから、1つひとつの発音はここでやめて、次はイントネーションに移りたいのだけれどいい?」

その結果3週目からはその週にCNNで使われているニュース原稿を使った特訓に移行した。それに伴い、この仕事をしているものとして、盛り上がる試練が与えられる。

「この原稿ちょっと長いでしょ? だから1分で読めるようにリライトしてきてほしいの。それを読んで録音して、明日聞かせて。他の先生にも聞かせるから本気でやってね」

なんという無茶ぶりだろうか。しかし、多少仕上がりが荒くても、講師と共に楽しんで取り組んだことは言うまでもない。また、この課題は、はじめに出した私のリクエストともリンクしている。4週目には、CMナレーションを扱い、英語の発音だけではなく、読むペースや強調の方法について指摘された。

筆者は日本でTVリポーターやナレーター、またプレゼンテーションなどのコミュニケーションを教える講師をしていたことがある。まさにそこで自分がやっていたことや教えていたことと同じことを英語で習っていることに面白味を感じ、授業以外の時間も懸命に練習してしまった。このように生徒の関心に合わせて、やる気にさせる方法もとても上手だった。