シンプルなデザインと明確なコンセプト

最終候補の作品を公開し、1週間~10日間程度、国民からの意見をはがきやインターネットで募集したあと、エンブレム委員にそれらの意見を開示し、4月末に予定する最終審査の参考にしてもらう方針。

最終審査での議論と投票は非公開で実施される。投票は、21人の委員による記名投票で、1つの作品が過半数を超えるまで続けられる。つまり、1回の投票で全ての作品が過半数を超えなかった場合は、最下位の作品を除き、残りの作品に対して再度投票を行い、過半数を超える作品が出るまで繰り返される。いわば、国際オリンピック委員会(IOC)によるオリンピック大会開催都市の選定の際の投票と似た方式である。

ただIOC委員は約100人、エンブレム委員は21人である。「なぜ、そういった投票方法なのですか? 理由は?」と問われれば、宮田委員長は「理由!」と発して、言葉を失った。代わりに組織委スタッフが説明する。

「そこのところはエンブレム委員会で決めたことです。委員長以下、丁寧にきちんとやろう、一発で決めるのではなく、丁寧に決めようということです」

要は、「丁寧に」、そして「透明性のあるプロセス」を踏みたいということだろう。ならば、議論や投票過程も公開にしてもらいたいところだが、「委員の間で忌憚なく、意見交換をしたいから」ということである。

いずれにしろ、五輪エンブレムは、50年先、100年先にも残る大会のシンボルとなるものだ。「日の丸」と「太陽」を連想させる1964年東京五輪のエンブレムのごとく、長く人々に愛されるためには、シンプルなデザインだけでなく、明確なコンセプトや理念が込められていなければならない。選定するエンブレム委員会には、その点のアカウンタビリティ(説明責任)も求められることになる。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。
【関連記事】
五輪エンブレム騒動の本質とは何か?
東京オリンピックを100%楽しむには
動画500万再生の金メダル候補「9歳空手少女」に親がかけた魔法
新国立競技場「何もかも中途半端なものになる」
日本人ゴルファーが五輪で勝つ法