受講者たちは、ぶっつけ本番のロールプレイにもかかわらず、「盆栽の全国大会に出たんですって」「ええ、手を加えることで変わっていくのがいいんですよ」などと、上司役、部下役をリアルに熱演。ただ、「再雇用できない」ことを告げる場面では、「失業しろと言うんですか!」「老後の計画がめちゃくちゃだ」といった部下役からの厳しい反応に、みな苦戦していた。
役割を交代して3回ロールプレイ演習を行った後の全体講評でも、「再雇用できない」旨をどう伝えるかについて、「最初にずばり告げて、後で理由を述べるべきだ」という意見と、「先に相手の話を十分聞いた後で述べるべきだ」という意見に分かれた。講師は、「実際はケースバイケースで正解パターンというものはない。面談以前に日頃からコミュニケーションをとっているかも重要」と話していたが、今後、このような難しい局面に直面する管理職は増えてくることだろう。
昼食後は、「職場の中心的存在であるチームリーダーの男性社員が、週に2回、保育園のお迎えで17時に退社したいと言ってきた」ケースと「厳しい納期と人員不足により高負荷、多残業に苦しむ職場」という2つのミニケースについてグループ討議を通じて対応策をまとめる演習。対策をまとめるだけでなく、「部下の話を聞いてあげられるよう席にいるようにしている」「社内の無駄な会議は減らすようにした」「中長期の見通しを伝え、ベクトルを共有するようにしている」など、それぞれがマネジメント経験を語る姿は、さすがは若くして管理職経験を積んだ部長たちならでは、と驚かされた。
その後も、「教え方」の研修は続き、使用スライドの説明や注意点の解説、模擬授業、ロールプレイのサンプルVTRを使ったフィードバックを学ぶ演習などが続く。
8時間分の研修を行うための「教え方を学ぶ」濃密な1日研修だったが、アドバイザーを務める部長たちは、激務の合間を縫って、このような研修を何日も受ける。そして、翌月には2泊3日の「幹プロ」研修で、20人を相手に研修講師を務めるというのだから、その負荷は相当高い。しかしながら、アドバイザーになることが社内のキャリアとしてプラスになると思われているところもあり、前向きに取り組む人が多いのだそうだ。
職場、研修でのOJTを通じて、「教え/教えられる風土」を再強化することで、トヨタが目指すものはなにか。人事担当常務の上田達郎はこう話す。「最終的にはトヨタパーソンとしての人間力の向上です。『愛車』というように、工業製品のクルマに『愛』がつく。だとすれば、つくる側もクルマが好きで、そうしたパッションを持った人でなくては。いつも感謝の気持ちを忘れず、仕入れ先さんや販売店さん、そしてお客さまから『トヨタを支えてやろう』と応援してもらえるような、愛される人をつくっていくことがゴールです」。
(文中敬称略)
およそ2カ月に1度開かれる読書会で用いられる教材。読んだ後でリーダーシップや倫理感について議論を進めるという。