トヨタの「OJT」はどこがすごいか

取材に同行したトヨタの人材育成には、日本の多くの企業、組織にとって、学ぶべきところが多いと感じました。一番の特徴は、人材育成の指針を「OJT」とワンコンセプトで言い切っているところです。

一般に、企業の人材育成は「新人にはOJT、管理職は外部研修、幹部にはMBAを……」と様々なコンセプトの組み合わせで成り立っています。新人、若手から幹部まで一貫したコンセプトで育成を考えている企業はほとんどありませんし、社長や役員も巻き込まれているのは珍しい。

ただし、トヨタのOJT は、多くの人がイメージするOJT とは異なります。通常、OJT とは、新人や若手社員が職場の先輩や上司につきっきりで仕事を学ぶ1 対1の限られた関係、期間で行われるものです。ところが、トヨタのOJT は、部長が課長を教え、課長が若手を教え……というように、上から下へ教え教えられる関係がつながっており、組織全体で取り組む世代継承の仕組みと言ってもいいかもしれません。つまり、トヨタの社員は、常に教えたり、教えられる関係の中にいて、全員が常に育成にコミットしている状態にあるのです。取材中、社員の方から「いつも誰かしら研修に行っていることが普通」という言葉を耳にしたのですが、これは、その証左となるように思います。

「Learning by Teaching(人は教えることで学ぶ)」という言葉の通り、「教える」ことによる効果は枚挙にいとまがありません。人は教える舞台に立つことで、自分の知識を整理することができます。また、教えることで、自らの行動もその通りにしなくてはと率先垂範するようになります。さらに、自分の組織について語ることで、組織に対するコミットメントが強くなり、組織文化を強固にします。

ただし、トヨタの人材教育を真似することは簡単ではありません。「教え/教えられる風土」は一朝一夕にできるものではないからです。「OJT」と「教え/教えられる文化」という強みを再評価し、強固にしていくことで、トヨタという組織はどのように変わっていくのか、注目しています。

中原 淳
東京大学大学総合教育研究センター 准教授。米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、2006年より現職。『企業内人材育成入門』など著書多数。
 
(的野弘路=撮影)
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