誇張するな、卑下するな
聞き手の反応を待つよりも、直接、「何を話したらいいか」を問いかけたほうがいいときもあります。相手の問題意識がはっきりしている場合です。
もう10年以上前ですが、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社から講演を依頼されたことがありました。演題の指定はとくになく、何を話してもいいということだったので、軽い気持ちで会場に入ると、そこにはすでに80人を超える精鋭たちが、いまやおそしと私のことを待ち構えているではありませんか。
しまった、マッキンゼーといえば世界最高峰のコンサルティング・ファームだ。おそらく金融についても基礎知識は豊富で、「ここが聞きたい、あれも聞いてやろう」と前のめりになっているに違いない――。そう気づいた途端、私の頭は真っ白になりました。いったい何を話していいかわからなくなってしまったのです。
そこで窮余の策として、話に入る前に、会場に向かって何を聞きたいか教えてほしいと呼びかけ、それに答える形で話を進めることにしました。これならば、相手の興味がないことを延々と話し続け、途中で飽きられるといった愚は犯さないですみます。事実、このときの講演はたいへん好評でした。
一番よくないのは、こういうとき、自分自身を実態以上に大きく見せようとすることです。最後まで背伸びをしながら話すのは精神的に辛いですし、いずれバレてしまえば、一気に信頼を失います。
若い人がやってしまいがちなことですが、いいことなどひとつもない。自分を卑下する必要はありませんが、誇張してもいけない。等身大の自分をさらけ出して話すことが大事なのです。
松本流●「話し下手克服」の3ポイント
・「ダメもと」ではなく伝える努力!
・聞き手の表情、しぐさの変化を見逃さない
・自分を大きく見せず等身大で語る
(山口雅之=構成 的野弘路=撮影)