部下への指示はどうあるべきか。これは部下の立場で考えてみればいい。あなたはどんな上司に悩まされてきただろうか。私の場合、「言うことがいつも違う上司」と「話の内容があいまいでわかりづらい上司」が頭に浮かぶ。このため、私はわかりやすい言葉で伝えるように努力してきた。言葉がシンプルであれば、話の軸がぶれてしまう恐れは少ないからだ。
その点で私が大きな影響を受けたのが、ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下J&J)の「Our Credo(我が信条)」という考え方である。
1943年にJ&Jの3代目社長が、株式公開を前に会社の社会的責任について記したもので、英文でわずか30行、A4用紙1枚の文書だ。この中では4つのステークホルダー(利害関係者)に対する責任が具体的に明示されている。特徴的なのはその順番だ。第1位が顧客、第2位が社員、第3位が地域社会、第4位が株主と書かれているからだ。
顧客第一は当然だが、なぜ株主が最後なのか。この文書を発表したときにも、株式公開するのに株主を最後にするのはおかしいという意見があった。これに対し、当時の社長は「顧客第一で考え行動し、残りの責任をこの順序通り果たしてゆけば、株主への責任は自ずと果たせるというのが、正しいビジネス論理なのだ」と答えたという。
では、なぜ社員が2番目なのか。これは社員を甘やかすという意味ではない。去年、カルビーでは2人の子どもをもつ短時間勤務の女性を執行役員とした。彼女の退社時間は16時だが、890人の部下を任せている。J&Jの「我が信条」には「能力ある人々には、雇用、能力開発および昇進の機会が平等に与えられなければならない」とある。よりわかりやすくいえば、「労働時間ではなく、成果をみる」「優秀な人なら性別、年齢、国籍に関係なく活躍してもらう」ということだ。
日本でも「社訓」がある企業は少なくない。だが、実際の行動に結びついている事例は少ないように感じる。なぜそうなってしまうのか。おそらくそれは日本人が「音」や「韻」を重んじる民族だからである。内容のわかりやすさや実用性よりも、声に出して読み上げたときの美しさを大切にする。これでは口から耳に通り抜けてしまうだけだろう。