地方の鶴岡だからできること

【田原】関山さんは、24歳のときにスパイバーを設立しました。会社をつくったのはどうしてですか。

【関山】理由はいろいろありますが、一番大きな理由は資金調達です。当時私は博士課程でしたが、博士課程の学生が使える研究費って、せいぜい年間に数百万円です。クモの糸の実用化には億単位の研究費が必要でしたから、会社にして投資家に投資していただいたほうがいいと判断しました。

【田原】そこが関山さんのおもしろいところだ。研究者は企業化してお金を集めようとはなかなか考えない。

【関山】どうでしょう。私はもともと研究一筋というより、事業サイドの視点のほうが強いタイプ。起業するという選択肢にとくに違和感はありませんでした。

【田原】お金はどれくらい集まったのですか。

【関山】はじめはまったく集まりませんでした。最初の2年間くらいは無給。アルバイトしながら何とか研究を続けていました。お金が集まり始めたのは、数十メートルの糸をつくれるようになった09年ごろですね。「バイオビジネスコンペJAPAN」で最優秀賞をいただいたことで少し注目していただけるようになり、その年にベンチャーキャピタルから総額3億円を調達できました。

【田原】そこで聞きたい。資金調達も含めてほかの会社といろいろやりとりするのに、鶴岡は不便じゃないですか。研究施設はともかく、本社機能を東京に移したほうがいいと思うんだけど。

【関山】鶴岡は若干不便なところもありますが、総合的に見ると、とってもいい場所。移転するつもりはないです。

【田原】鶴岡に会社を置くメリットは何でしょう?

【関山】まず、入社したい人のスクリーニングになります。おかげさまで海外からも入社志望の方が来るのですが、おそらく海外の人にとって鶴岡は名前すら聞いたことがない町。それでも働きたいというモチベーションが高い人だけが入社してくれるのは、大きなメリットです。