必要なのは自分のスキルを磨く投資への支援

いうなれば、働く人に、自律的に判断し、行動できるためのパワーを与えるというのが、エンパワーメントである。その意味で、労働政策に当てはめた場合、一層の規制緩和がまず必要だ。働く人が自ら選択し、行動できるための自由の拡大が必要なのである。実際にここしばらくの規制緩和によって、労働者の選択肢は拡大されてきた。たとえば、昨今は、望ましくない働き方ナンバー1かのように扱われる派遣労働も、多くの人にとっては、自らのライフスタイルに合った働き方を選択する自由度を提供した。様々な理由で正規労働の窮屈さを受け入れがたい人材にとって、派遣労働はこれまでになかった選択肢を与えたのである。

だが、問題はそうした選択肢の拡大に、働く人への資源提供が伴ってきたのかという点にある。真のエンパワーメントのためには、働く人が行動するための資源の提供が必要であり、具体的には、能力(育成、ある程度の指示等)や資源(情報、時間など)、公平な競争の機会などを含め、多くの資源が必要である。

たとえば、派遣労働についていえば、多くの研究が、派遣労働者については、働き方の自由度は提供されていても、教育やスキルアップの機会が極めて少ないことを指摘している(たとえば、佐藤博樹・松浦民恵・島貫智行・高橋康二・中道麻子『派遣という働き方を通じたキャリア形成──事務職、コールセンター・オペレーター、技術者、営業職』東京大学社会科学研究所人材ビジネス研究寄付部門研究シリーズNo.14、09年7月)。派遣は真のエンパワーメントのための資源が提供されにくい働き方なのである。

そこで政府の役割が重要になる。派遣労働者のスキルアップ、キャリア開発という問題は、ようやく最近になって議論されるようになった。働く人のエンパワーメントがその人の能力レベルに依存する度合いが高い以上、政策として重要なのは、派遣労働者の保護強化ではなく、こうしたタイプの人材がスキルアップの機会を得られるための支援である。