街をホテルに見立て、地元に溶け込む体験を
15年11月、台東区谷中にオープンした「hanare」は、築50年の木造アパートをリノベーションした5部屋の小さなホテルだ。手がけたのは33歳の若き1級建築士、HAGISO代表の宮崎晃吉さん。前職の設計事務所では、海外の巨大施設の建築に携わっていたが、この<hanare>は5部屋のプチホテル。しかし、この宿のコンセプトは<まち全体を大きなホテルに見立てる>というスケールの大きなものだ。
宿泊者はチェックインすると、コンシェルジュからウェルカムドリンクとともに街の情報やマナーを伝えられ、見どころやホテルおすすめの食堂がわかるオリジナルマップ、銭湯チケットなどが渡される。いわば街にある6つの銭湯がホテルの浴場、街の食堂がレストランというもの。街にはレンタサイクル店もあれば、尺八体験教室もある。
「20年に向けて、開発熱も高まっているし、それ自体は悪いことじゃないのですけど、谷中は開発されていないことが価値だったりもするので、どこでも同じような手法で開発してしまうと、せっかくの価値が損なわれてしまう気がしていたのです。で、自分から街に対して能動的に働きかけられることは何だろう、自分ができることで、一番面白いことって考えて、出た答えが宿泊施設だったのです」
建築家としての宮崎さんは、建物だけではなく、その建物がどういうアクティビティーをつくっていくのかに興味があると言う。
「谷中は、商店街で買い食いをしながら、ノスタルジックな街をぶらつく所みたいな評価があります。それはそれで楽しいのですけど、もっと些細な、朝の挨拶を交わす光景、銭湯に通う人たちとか、夜の飲み屋さんだとか、ここの日常に旅行者が自然に溶け込めたときに、すごくいい思い出になるような気がして。旅先で地元の人に愛されている場所に行って、ちょっとだけその一員になれたような気分になるときって楽しいでしょう? そういう体験をしてもらえたらいいなと」
もちろん、スタッフを含め、英語対応を完備しているが、インバウンドも含め、いろんなお客さんに来てほしいと宮崎さんは言う。
「うちのカフェのお客さんも、観光で来られる若い女性もいるし、毎日来る近所のおじいちゃんもいます。世代も住んでいる場所もばらばらな人たちが同じ場所にいるという光景が理想だと思っていて、そういう意味で、海外の人も重要なゲストです」
単なる観光旅行、買い物旅行にとどまらない、様々な文化との、より密度の高いコミュニケーションを目的とした宿泊施設の登場は、東京だけでなく、日本の新しい魅力の発信源となりそうな予感だ。
ゲストはカフェギャラリーHAGISO2階の受付でチェックイン。ウェルカムドリンク、朝食、銭湯チケットとともに、街の情報が伝えられる。オリジナルマップは表裏で昼用夜用。HAGISOから宿泊棟まで徒歩30秒。
所在地/東京都台東区谷中3-10-25
TEL(HAGISO)/03-5834-7301。チェックイン/15:00~、チェックアウト/~11:00。1泊1万2000円(時期により変動アリ)
1982年生まれ。東京藝術大学卒業後、磯崎新アトリエ勤務を経てフリーに。2013年、谷中の解体予定だった築58年の木造アパート「萩荘」を再生したカフェギャラリー「HAGISO」を設計・運営。