そのあとコロンビア大学からもオファーが来ましたが、ボストンに残りたかったので、ハーバード大を選び、国籍もアメリカに変えました。ハーバード大では(長寿遺伝子の一つである)サーチュイン遺伝子をヒトの細胞で研究し始めたのです。その研究のために私のラボがつくられました。(サーチュイン遺伝子を活性化するとされる)レスベラトロールの研究もまだ続けています。

シンクレア教授が在籍するアメリカ・ハーバード大学。

その分子が重要なのは、一つは老化を遅らせる効果があることです。もう一つは今まさに臨床試験が行われており、4~5年すれば、老化を遅らせる薬ができる可能性が非常に高いことです。2005年にSirtrisというベンチャー企業を立ち上げましたが、それは08年に7億2000万ドルでグラクソ・スミスクライン社に買収されました。同社は10億ドルを投資して研究し、今年(2015年)の終わりまでには大規模な臨床試験が行われます。

また、私たちは老化を逆行させる方法を理解するために幹細胞を研究しています。女性の卵巣から取り出した卵巣幹細胞を培養して何百万個もの卵子をつくることができます。今、女性が健康な赤ちゃんを産めるように、また遺伝病をいかにして治すかについて研究しています。OvaScienceというベンチャー企業を立ち上げ、新しい生殖医療や女性の卵子の老化を逆行させる研究をしています。今この企業は12億ドルの価値があります。

ハーバード大学・教授 デビッド・シンクレア
1969年、オーストラリア生まれ。シドニーのニューサウスウェールズ大学で最優等学士を取得。コモンウェルス賞を受賞。95年、分子遺伝学を専攻し学位を取得。トンプソン最優秀学位論文賞を受賞。MITでギャランテ博士の下で勤務した後、現職に。
(大野和基=インタビュー・構成・撮影(シンクレア氏) 小倉康平=監修・編集協力 時事通信フォト=写真)
【関連記事】
ノーベル賞受賞! 北里大学・大村智名誉教授から学ぶ独創性
「遺伝子診断」でがんの性質にあわせて治療薬を選ぶ時代に
わが子が変わる! アメリカ発「天才遺伝子の育て方」【前編】
DeNAも参入!遺伝子ビジネスで狙う38兆円市場【1】