91年私はMIT(マサチューセッツ工科大学)のレオナルド・ギャランテ教授に出会いました。彼は酵母(学名Saccharomyces cerevisiae )の老化のメカニズムについて研究を始めたばかりでした。専門用語ではサッカロマイセス・セレヴィシエといいます。酵母というとても単純な細胞で老化の研究をするメリットは多く、私もすでに酵母で研究をしていましたが、ギャランテ教授はとても頭が良く、この教授のもとで研究したいと思いました。

マサチューセッツ工科大学・教授 レオナルド・ギャランテ氏(写真=時事通信フォト)

そこで彼に「何が何でも行く」という内容の手紙を書きました。すると「こちらには払える資金がないから、フェローシップ(奨学金)を見つけたら来てもいい」という返事でした。やっとの思いでフェローシップを見つけ、なけなしの貯金をすべて使ってシドニーからボストンまで飛びました。95年のことです。

レオナルド・ギャランテ教授は、「老化はいずれ“病気”に分類されるようになり、近い将来に“抗老化薬”は開発できる」と信じる分子生物学を起点にしたアンチエイジング研究の第一人者だ。酵母の寿命を制御するサーチュイン遺伝子の一つ(Sir2)を発見したことで知られている。人間の老化を遅らせる薬を開発する会社を99年に設立し、資金調達額は合計で4900万ドルに達したという。

みんなにクレイジーと言われた!

MITの4年間で「酵母の老化」について研究をしました。

酵母は永久に生きると思う人も多いのですが、実際は1週間で死にます。ギャランテ教授と一緒に、酵母の老化のメカニズムを初めて解明しました。染色体がもつれて死ぬのです。それが老化をコントロールするサーチュイン遺伝子の発見につながったのです。寿命延長の効果があるとされているレスベラトロールの登場は約8年後です。

当初、酵母の研究は、同僚たちにクレイジーだと言われました(笑)。オーストラリアの母親に電話して「大きな間違いをした。みんなにクレイジーだと言われている。もうオーストラリアに帰る」と泣きつきました。すると母親は先見の明があったのか「もう少し頑張ってごらん。きっとうまくいくわよ」と言ってくれました。しばらくすると数週間ごとに大発見が続くようになりました。とてもわくわくする研究生活を過ごすことができました。