残業、長時間労働は当たり前
こうした日本的雇用慣行のメリットは他にもある。たとえば会社は業績が良いときは、社員たちに残業で長時間働いてもらえる。新たに人を雇い入れるよりは時間外割増賃金を払って残業してもらったほうが得なのだ。
逆に業績が悪化すると、社員のクビは切れない代わりに残業を減らし、それでも足りないときはさらにボーナスを削って人件費を調整しようとする。残業が好・不況期のバッファー(緩衝)になっているのだ。
非正規の1.5倍超の月給をもらう代わり、日本の正社員の労働時間は長い。残業はやって当然という構造的要因がポイントになっている。
こうした働き方は同じ正社員でも欧米企業とは異なる。
欧米では一定の職務スキルがないと新卒でも採用されないし、入社後も担当する職務で賃金が決まり、スキルがアップすればそれに応じて賃金も上がる。また一部のエリートでない限り、転勤もなければ長時間残業もない。対して日本の正社員は職務や時間に関係なく無制限に働くことを求められる。
では、非正規社員の働き方はどうなっているのか。
非正規社員の働き方は基本的に営業事務や経理業務の一部といったルーチンワークが多い。限られた職務の遂行だけが求められ、何でも屋の正社員の補助的な仕事が中心だ。
月給は時給ベースであり、技能レベルによって多少の賃金は上がるが、正社員に比べるとそれでも低い。
最近、非正規であっても正社員と同じようにいろんな職務をやらされ、場合によっては出張・転勤もこなしているのに月給が同世代の正社員より低いケースは少なくないが、これは労働契約法の「合理的理由のない差別」にあたり違法となる可能性が高い。
整理すれば、非正規の働き方は一定の時間内に特定の職務を遂行する欧米企業の職務主義に近く、正社員は何でも無制限の特殊な働き方。そんな二重構造になっているといえる。
安倍首相は「1億総活躍社会」の実現に向け「同一労働同一賃金」の仕組みを導入すると発言している。しかし、前述したようにそもそも正社員と非正規の働き方が異なる中で、何をもって同一と判断するのか、どういう仕事をした場合にどういう賃金になるのか、どこまでの差が許容されるのかといった基準を設定するのは容易ではない。
だが、一方では正社員の世界も、雇用を保障する代わりに無制限に働いてもらう「日本的雇用慣行」が徐々に崩れ始めている。リストラの実施で終身雇用をかなぐり捨てているにもかかわらず、配置転換と長時間労働を強いる無制限な働き方だけが維持されているといういびつな構造になっている企業も多い。
また、正社員といっても前述したように、どんな仕事でも何でもそつなくこなす社員ばかりではない。能力不足のために責任ある仕事を任されない、あるいは給与分の貢献度をしていないのに高い給与をもらっている社員も少なくない。