【柳井】それぐらい一生懸命にやらないと一人前にはなれないんじゃないですか。不思議なことに、みんな大学を出たら一人前だと思っている。どれだけ優秀な人でも何かの仕事で一人前になろうとしたら、3年から5年はかかります。普通の人なら一つのことを10年ぐらいはやり続けないと絶対に一人前になれません。

【弘兼】その通りです。ただ、企業としては働き方の変化に合わせて制度を整える必要がありますね。ユニクロでは2014年4月、約3万人のパート・アルバイトの半数にあたる約1万6000人を正社員にする方針を打ち出しました。これは社員の要望に応じて、どんどんキャリアアップできる働き方と、転勤がなく希望の勤務地に居続けられる働き方をわける、という考え方ですね。

2013年9月、上海にオープンしたユニクロのグローバル旗艦店。(時事通信フォト=写真)

【柳井】はい。大きくわけると正社員の制度は2つあります。転勤がない「地域正社員」と、日本全国もしくは海外でも活躍してもらう「グローバルリーダー」。この2つは自由に行き来ができます。

僕らは「売上高5兆円」という前人未踏のエベレストに登頂しようとしているわけです。大学を卒業したばかりの新入社員に「エベレストに行こう」と言っても難しい。それなら、まずは近くの標高500メートル程度の山に登るところから始めないといけない。地域正社員はその取り組みのひとつです。でも500メートルに登ったら、次は1000メートルに登りたいと思うはずです。500メートルで見える風景と、平地で見える風景は、まったく違いますから。

人間には、誰しも成長意欲がある。まずは近くの500メートルの丘に登るというのが地域正社員です。販売の現場にはいろいろな仕事があります。どんな作業もこなせて、人に指示が出せて、店長の代理もできる。普通の人なら10年かかる仕事を、3年でできるようになるかもしれない。そういう人にはより高いステージで活躍してもらいたいですね。販売の現場を経験することは、すごく大事なことだと思います。上から下を見るだけでなく、下から上を見る。上下両方とも経験することで、偏りなく見ることができますから。