金 美齢

1934年、台湾・台北生まれ。日本統治下の時代に育ち、日本に留学後、夫の故・周英明氏と学生結婚。台湾民主化運動に携わったことから、62年より31年間、台湾への入国を禁じられる。帰国を許された後、台湾総統府国策顧問に就任。6年にわたって活動する。母校の早稲田大学では20年以上にわたって英語教育に携わる。59歳でテレビでの提言活動を開始。講演・執筆も精力的に行い、昨年「美齢塾」を立ち上げた。2009年に日本国籍を取得。著書に『「おひとりさま」で幸せですか』など。


 

東京の自宅にいるのは、1年のうち半分ぐらい。あとは講演などで地方に行っているか、海外に出ているか。よく行く場所には常宿があって、広島なら「グランヴィア」、大阪なら「ザ・リッツ・カールトン」、京都なら「ブライトン」、名古屋なら「マリオットアソシア」と決めているんです。どのホテルでも予約するのは、毎回同じタイプの部屋。慣れた空間のほうが落ち着くでしょ。気分よく仕事をするためには、自分で条件を整えることが大切。「おかえりなさい」って迎えてくれるホテルもあるわね。

着いた日の夜は、大抵、ホテル内のレストランで食事します。仕事で行っているから食事も一人。だから、選ぶのはカウンターのある店ね。天ぷら、寿司、「那古亭」のような鉄板焼き。ここはお肉はもちろん、ガーリックライスが絶品なのよ。

朝食がおいしいことも、私のホテル選びの基準です。1日の始まりを心地よく、楽しく過ごしたいですから。特に大事なのはパン。私が台湾で常宿にしている「シャーウッド」は、利用し始めた当初、パンのクオリティが安定しなくてね。日本から参考になる本を持っていき、クロワッサンなどの講釈をしたんですよ。そうしたら、あるとき、見違えるほどおいしくなっていたの。褒めたら、帝国ホテルから製パン職人を招いて教えてもらっているって言うんですよ。

それからクロワッサンのおいしいホテルということで有名になって。台湾のケーブルテレビの取材を受けたときには、「金先生は厳しい。でも、勉強になります」ってホテルの人が言ってたわね(笑)。ホテルやお店はお客さんが育てるもの。快適な時間を手に入れたいなら、待っているばかりでなく、自分が努力することも必要なんですよ。

このシャーウッドとは長い付き合いになるわね。私が31年ぶりに台湾に帰ることを許されたのは1992年。そのときにいくつかのホテルに泊まってみて、一番気に入ったのがここだったんです。台湾総統府国策顧問に就き、国際会議が圓山ホテルで開かれたときも、そこに泊まればお金はかからないけれど、わざわざシャーウッドに泊まったぐらい。

このホテルでは、昨年末から年始にかけて「美齢塾」を開きました。若い人たちを勇気づけようというのが塾の目的。もちろん、新たな出会いも生まれる。無縁社会と言うけれど、縁(えにし)は自分でつくっていくものだと思うんです。

プライベートでも若い人とよく食事をしますが、すごく楽しいんですよ。そのときは、必ず、私がご馳走する。私も若い頃には先輩たちにお世話になりましたから。私と縁を持った人がまた若い人たちの面倒をみてあげれば、世代がつながっていくじゃないですか。