会社を動かすのは誰か。それはあくまでも、現場の社員だろう。では、社員を動かすのは、どんな経営者だろうか。創業者、大株主、カリスマ。そんなものは空疎なレッテルにすぎない。孫正義氏の何が周囲を心酔させるのか。ソフトバンク幹部たちが初めて明かした──。
――ヤフー副社長 川邊健太郎氏の場合
「頭がハゲるほど考えているのか」
孫さんに初めて会ったのは1998年のことです。ネットバブルが過熱しはじめていたときに、IT企業の経営者を集めたパーティーでご挨拶しました。私は学生時代にITベンチャーを起業していて、周囲には「24時間、事業のことを考えよう」と言っていました。でも、正直に言えば当時はそこまで真剣ではなかった。そこで孫さんに会って、「この人はヤバい」と衝撃を受けました。本当に24時間、事業のことを考えている人がいるかもしれない、と。
その後、会社はヤフーと合併し、仕事での接点が増えました。孫さんは、成果を厳しく求めますが、その話し方は機知に富んでいます。だから一緒に仕事をすると、とにかくおもしろい。ソフトバンクの経営会議は、笑いの数では日本の上場企業の会議の中で一番多いと思います。
たとえば、あるとき孫さんは、ヤフーの経営陣に、「24時間事業のことを考えろ」と言いました。私が「それは具体的にどういうことですか」と聞くと、「みる夢の6割まで事業のことになる状態だ」と言う。そこで「孫さんは夢の何割が事業のことなんですか」と聞くと、「4割ぐらいは違う夢もみるけど、6割ぐらいは事業の夢をみるんだよ」と言う。すかさずヤフーの宮坂学社長が、「じゃあ、その6割のうち、何割が儲かる夢で、何割が損する夢なんですか」と聞きました。一瞬、間があって、ニヤッとしてから、「ほとんど儲かる夢だね」と言うんです。どうだ、まいったか、という感じで。みんな大笑いですよ。
別の会議では、「おまえ、頭がハゲるほど考えているのか」と言うわけです。みんな、孫さんの頭をみて、苦笑いを浮かべる。すかさず、「おれは考えている」とくる。笑っちゃいますよね。これは知恵を絞り出そう、という呼びかけなんです。笑いがあっても、ふざけているわけじゃない。孫さんは誰よりも真剣に取り組んでいるから、こんなやり取りが成り立つ。坂本龍馬や豊臣秀吉にも、こんな愛嬌があったはずです。