▼「親指を動かすと痛い」 主婦Aさん(41歳女性)
「右手の親指を動かすと痛い」というAさん。どうやら腱鞘炎のようだが、そうなった理由が気になった。Aさんは、SNSの友達の返信が過度に気になり、台所で立ちスマホをしたままで、食事を作らないことがしょっちゅう。家族や職場の人間関係にも支障が出てきた。

Aさんは右手の親指を伸ばすと付け根が痛む。スマホを繰り返し操作することによる腱鞘(けんしょう)炎だ。このような「スマホ指・スマホ腱鞘炎」は近頃増えている。

通常、親指をできるだけ使わないように過ごすと改善するのだが、Aさんは休ませることは「できない」と言う。Aさんは、1日の始めも終わりもスマホを握ることが習慣になっていた。「書き込みに友達が反応してくれるのがうれしい」という彼女は、スマホ腱鞘炎よりも治すのに根気がいる、スマホ依存症だった。

来院したときはすでに、スマホを手放せない状態だった。スマホを家に忘れ、空港でパニックになり、家族旅行を中止した。仕事中、スマホを握ってトイレにこもることが問題になり、パートも辞めた。食事中もスマホを離さず、夫や小学生の娘とも険悪な雰囲気に。

Aさんがスマホを愛用し始めたきっかけは、ママ友のLINEのグループに入ったことだった。グルメ写真や趣味のネイルの写真を投稿すると「素敵」「また見せてね」という返信に心が躍った。「どんなときもスマホを見れば楽しい時間にトリップできる」とAさんは話した。

現在、スマホ依存症という医学用語はないが、ネット依存症として治療を行う病院がある。Aさんも依存症外来のある精神科で治療することになった。

スマホがないと強烈な不安を感じる、不適切な場所で使用する、人と話す機会が減った、不眠症あるいは睡眠時間が減った場合は、依存症のサイン。使ってはいけない状況で我慢ができず、健康や人間関係に悪影響が出ているのに、自分では改善できないとき、ネット依存が専門の病院を受診することを考えてみてほしい。

スマホ依存症を心配する人は、スマホの使い方をコントロールする3つのステップを試してもらいたい。まずは自己分析。仲間意識、不安、退屈など、スマホを手に取る理由を知ろう。次に訓練。メールの着信音が鳴っても、すぐに対応しない。思い切って1日電源を切ってしまうなどして、少しずつ我慢する。次に、管理。携帯を使わない場所や時間を作る。例えば、夜9時から朝8時までは、電源をオフにし、子供と話すときや家事の最中は触らないなどと、ルールを決める。大人が自らの使い方を見直すことで、子供の依存予防にもつながるはずだ。

西澤宗子
総合診療医。大村病院健診センター長。3人の男の子の母。『診察室からのぞいた子育て』(Kindle版)の著書がある。総合診療とは、「何科に行けばいいかわからない」症状について、“科”にかかわらず全体的に診断する仕事。
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