販売・営業部門の出した答えとは
稲本は、販売改革の哲学を示した。いやむしろ、マツダ営業方式という看板を掲げることによって、販売に携わる人たち全員に対して、その生きざまを考えそして実行することを要求した。それに応えるように、国内営業本部と販売会社は、人馬一体アカデミーをはじめさまざまな実践案を創出することによって、従来の販売手法の変革に取り組んでいる。
2006年、現会長の金井誠太はエンジニアに向かって言った「君たちにロマンはあるか?」。ロマンだけなら誰でも描ける。ただし、ロマンを語るだけでは、そこから何も生まれてこない。マツダのエンジニアは、独自のロマンを描くだけでなく、内外からの“実現不可能”と疑問視されたそのロマンをついに現実のものにし、しかもそこから利益を生み出しマツダの業績伸長に大きな貢献を果たしている。
2008年、稲本は営業販売部門の人たちに向かって問いかけた「君たちの生きざまは何か?」それは表現こそ違え、金井の要求したロマンと同質のものではないか。表現が違ったのは、その対象となる人たちの部門が違っていたからにすぎない。そして、販売・営業部門の人たちも、稲本に対して生きざまの答えを出そうとしている。
国内営業本部ブランド推進部部長の釼持豊は言う。
「生きざま? 稲本は社内でしょっちゅう“生きざま”と言っています。いつも聞かされていますよ」
君たちの生きざまは何か? マツダの生きざまは何か? 顧客はマツダのどんな生きざまに共感を覚えてくれるのか? この投げかけに対して、販売・営業部門はその答えを出すことに取り組む。
その取り組みのひとつがマツダの新たなCMメッセージの展開だった。
2013年6月に始めたメッセージは「マツダは、ドライバーでありたい」そして現在まで続くキャッチフレーズ、Be a driverを展開し始める。
このメッセージがマツダ車ユーザーの共感を徐々に広げ、国内営業本部のスタッフは顧客への直接インタビューを重ねるごとにその手応えを感じたという。このが次のメッセージを生むことになる。
2014年7月には「自分の人生の、主人公になろう」。まさに稲本の言う生きざまそのものだ。そしてそこで、顧客へのインタビューからヒントを得て考え出した「自分の行く道は自分で決めたほうが楽しいに決まっている」ということばが語られる。
最近マツダがコマーシャルメッセージとして一貫して使っているBe a driver。もちろんこのことばを稲本ひとりが生み出したというつもりは全くない。それでも、稲本の唱えている“生きざま”が、スカイアクティブを開発したエンジニアリングの部隊だけでなく、マツダの販売・営業部門の人たちの意識にも浸透しているこれは証拠ではないだろうか。
「ブランドとは生きざま」これが今、マツダの販売・営業部門の強力な“ドライバー”になっている。