名付けて「人馬一体アカデミー」

そして翌2013年の夏、マツダの基幹車種の一角であるアクセラのニューモデル発売を間近に控えていたころ、2011年の4月に執行役員となり、稲本に代わり国内営業本部長に就任していた福原は(稲本は2013年6月専務執行役員に昇格)、常務執行役員・藤原清志がお膳立てした“特別試乗会”に招かれる。招待客は福原のほかにはただ1人、常務執行役員(営業領域統括)の毛籠勝弘のみ。1泊2日をかけて一般道や高速道路を走る。同乗したのは藤原の部下の開発エンジニア。テストコースではなく、一般ユーザーの一般的な走りを経験することによって、それも同時に競合車と乗り比べることによって普段のドライブでも、つまりたとえば、時速40キロで市街地を走っていても、マツダ車は運転が楽しいことに改めて気づかされた。

『ロマンとソロバン』(宮本喜一著・プレジデント社刊)

福原は、藤原のこの仕掛けに応え、販売現場の人たちに自分と同じ経験をさせようと考えた。自分自身が経験し体感することによってマツダ車の魅力、つまり走る歓びZoom-Zoomを語れるようになるからだ。顧客をこれ以上説得するのによいことばはない。セールスマニュアル一辺倒の状態から完全に脱却できる。

仕掛けから数カ月後、国内営業本部のスタッフや販売現場である販売会社の人たちを対象にしたプログラムが立ち上がる。マツダが山口県に保有する美祢自動車試験場を主会場にした、1泊2日、あるいは2泊3日の研修で、インストラクターは走行領域の専門家的スタッフが務める。名付けて「人馬一体アカデミー」。今では全国の販売会社に浸透している。

このアカデミー効果によって、販売担当者は、マニュアルの学習からはなかなか生まれない自分のことばを、自信を持って顧客に語るようになった。しかもスカイアクティブ搭載車は、一括企画によって開発されているため、マツダ車共通で運転の楽しさを語れるというメリットがある。

マツダ営業方式は、販売現場における共通の価値観を提唱すると同時に、スタッフに対して、「自ら感じ、自ら考え、自ら行動する」ことを要求する。この人馬一体アカデミーは、そうしたスタッフを養成する絶好の場になっている。