先を読む力で世界を驚かせた日本企業とは?
他方、日本企業は3番手以降のポジションで市場の後追いしているところが多いため、現在でもアジア中心に販売戦略を続けている。顕著な例は、IoTの製品開発である。
数年前、私がある日本企業の担当者にこう苦言を呈したことがある。
「米国市場ではトレンドになっているのに、なぜまだ製品開発ができていないんですか?」
「ウチの事業戦略ではターゲットになっていないんですよ」
自らが経てた事業計画を中心にアジア市場で活動しているため、それ以外の動向は全く見ていない。日本企業は世界市場へ拡大しそうなトレンドに対してはノーアクションで、しばらく手つかずのまま何もしないでいることが近年増してきた。
財務報告を見ると、日本企業の収益構造には大きな問題がみられる。今は為替益が大きく貢献しているため、事業計画全体の数字は悪くないが、収益自体は縮小傾向を示している企業がとても多い。そのため賃上げもやっとの状態である。
また、最近の日本企業の現場は、ボトムアップではほとんど何もできないシステムになっているため、現場の専門的な視点での発案・提案で、先見性のある商品企画を生み出すことができない。
管理職の口癖はこれだ。
「(現場から上がってきた企画は)面白いとは思うんですけど、当初の計画以上の余計なことは一切やらない、できない、そんな状況なので」
こうした発言の本音は「ニッチでこじんまりやるのが、1番だよ」といったところだろうか。
そんな中、先見性ある事業戦略で世界から賞賛されている企業もある。富士フイルムである。
米国ビジネス界ではコダックがまだカメラ関係の事業しか模索できていない中、富士フイルムはフィルム粒子のナノテク技術を踏まえて化粧品事業を起こし、彼らマスコミを驚かせた。
そして、カメラ機構の技術から生んだ医療機器事業を拡大し、ライフサイエンス分野と医薬品分野を立ち上げ、新事業部門を確立するなど、新市場をターゲットに事業転換やチャレンジを怠らない。
そのためには新たな研究投資をし、新規事業に必要なヒューマンリソースは外からとり入れ、既存の管理職は能力研鑽を行った。先見性を持った事業開拓は戦略遂行も高難易度だが、企業内部の「すべての力を鍛え直すこと」によって遂行力を高めている。