2点目は、大きな内外価格差だ。中国では輸入品に対して、高率の関税や日本の消費税にあたる「増値税」がかかるため、どうしても流通価格が高くなる。さらにこの数年、「円安元高」が進み、日本での買い物は、中国人にとってより安く感じられる。
三菱総研の調査によると(図参照)、温かいお茶をよく飲む中国人に人気の「ステンレスボトル」は、日本では3470円なのに対し、中国では1万1362円と約3倍の価格差がある。ステンレスボトルや炊飯器は、日本と中国、どちらで買っても中国製の商品なのだ。
一部には日本のほうが割高な商品もある。たとえば医薬品の場合、総合胃腸薬の「太田胃散」が人気だが、これは中国製の「同仁堂活胃散」に比べると4倍以上の価格差がある。それでも日本製の医薬品を買い求めるのは、「日本で開発された薬はすばらしいに違いない」という定評があるからだ。
中国本土ではネットを通じて日本の商品を代理購入してもらう「代購」が流行しているが、これも日本から発送することが売りになっている。
中国はこの10年で急速な経済成長を遂げた。その結果、海外旅行も爆発的に増えた。UNWTO(国連世界観光機関)の発表によると、2014年の出国者数は約1億900万人に達した。このうち日本への出国者は241万人で全体のシェアは3%に達していない。これまで中国人にとって身近な海外は韓国とタイだったが、韓国は中東呼吸器症候群(MERS)の流行、タイは相次ぐ政情不安で客足が鈍い。日本への出国は今年500万人を超え、来年以降もさらに増えると見込まれる。
ただし「爆買い」の波は世界中に広がっている。すでに都市部の富裕層は高級炊飯器や温水洗浄便座といった日本製の家電を持っている。現在、日本で家電を買っているのは訪日中国人の6割を占める団体客だ。彼らの多くは中国の内陸部から来ている。筆者は今年7月、東京・銀座で20組の中国人団体客に声をかけたが、都市部から来た団体客は北京からの1組だけで、残りはすべて武漢、瀋陽、桂林、西安、成都といった内陸部からだった。
こうした団体客は中国のさらに内陸にまだまだ存在する。彼らは今後も家電を「爆買い」するはずだ。だが、いずれはそれも尽きる。現在、個人客は全体の4割程度だが、その比率は年々高まっている。そうした個人客のニーズは団体客とは異なる。