野球部出身者でも叱れば泣く時代
羽村は荒田の会社に1年半いた。さすがに青い鳥探しは諦めたようだ。先輩に怒鳴られて目を白黒させていたが辞めなかった。上司は「あいつは使いものにならない」と嘆いた。荒田が「あまりいじめないで、面倒を見てくれ」と言うので、上司は目をつぶり追及を手びかえた。
後輩が2人入社し、たちまち羽村を追い抜いた。それがこたえたようで辞表を出した。それにしても1年半よく持ったものである。
会社は羽村のような人をどうすればよいか。
第1は採用しないこと。
賢明な会社は運動部の学生のみを採用している。運動部員はしごかれ罵倒され練習を重ねる。体を鍛えることが同時に精神を鍛えることになる。監督やコーチのハードな練習命令を「はい」と聞いてその要求に応えた。諦めずに戦えば勝てることを知った。仲間と力を合わせれば、チームの力が倍加することを知った。
運動部にいた社員は仕事をいやがらない。「できません」とは言わない。暗い顔で泣きベソはかかない。入社して2カ月で逃げ出したりはしない。そのうえ集団生活に慣れている。誰とでもうまくやっていくコツを心得ている。ペーパーテストで優秀な成績をあげてきた秀才と比べてスポーツマンは現実派であり、会社にとっては即戦力になる人材である。
と断言したいところだが、この説も今は通用しなくなりつつある。
高級スーツの販売会社。全社員が運動部出身か体育会系。専務が言っていた。
「最近の新入社員、きつく叱ると泣くんですよ。高校の野球部出身がです。運動部も民主的になっちゃって、監督、コーチがやさしくなった。部員にお伺いを立てて練習メニューを作る。朝練はなし、もちろんシゴキなどありません。『巨人の星』の星飛雄馬のような根性のある学生ができるわけがない。だから会社へ入って命令されたり、叱られたりすると泣くんです。男がですよ。ウチはマスコミが体育会系の会社だととりあげてくれましたが、昔のような根性のある社員はほとんどいない。といって勉強しかできないペーパー秀才を採用する気にはなれない。これからも運動部の学生を採りますが、即戦力などにはとてもなりません」
勉強しない遊び人学生はもちろん、ペーパー秀才も運動部出身者も採用しないで済めば、それに越したことはない。