「資産の大半が実家」「親と同居」が危ない
それぞれの法定相続人が相続する遺産の割合も法で定められており、これを「法定相続分」と呼ぶ。たとえば、被相続人の配偶者と子供たちで相続する場合、配偶者の相続分は2分の1で、残りの2分の1を子供たちが均等に分ける。配偶者がすでに死亡している場合は、子供全員で全額を均等に分け合う。第2相続人や第3相続人が被相続人の配偶者と遺産を分割する場合は、配偶者の相続分がより多く認められている(第2相続人との分割では3分の2、第3相続人とでは4分の3)。
遺言書による指定がある場合や、法定相続人全員が遺産分割協議で合意した場合は、これにこだわらない割合で遺産を分割できる。一方で法定相続人には、たとえ遺言書があっても最低限相続できる相続分が「遺留分」として認められている(配偶者と子供は法定相続分の2分の1、父母や祖父母のみが相続人になった場合は同3分の1。兄弟やおい・めいの遺留分はゼロ)。
では、「ふつうのお宅」の相続が、なぜこじれやすいのか。「最大の原因は、日頃から税理士や信託銀行との付き合いがある富裕層と異なり、相続関連の助言を受ける機会が少ないこと。その結果、必要な準備や対策をまったくしていないご家庭が大半です」(内田氏)。
遺産の大部分を、実家の土地・家屋が占めるケースが多いのも一因だ。親族の誰かが亡親と同居していたり、店舗を構えていたりすれば、実家を売却して分ける手段はとりにくい。かといって、実家の評価額相当のお金を他の相続人に平等に渡せるだけの現金は、「ふつうのお宅」にはまずない。
「相続人の数が多い」「被相続人に前妻の子や認知した婚外子がいる」場合も、相続紛争になりやすい。兄弟姉妹は平等という権利意識が一般化するなか、日頃の付き合いが薄い親族が、他の相続人の事情を勘案せずに法定相続分を率直に主張することも多い。
「親が生きているうちは、円満に済みそうな相続、普通の相続、もめそうな相続がだいたい2:6:2ぐらいの印象です。ところが実際に相続手続きが始まると、円満と普通が2割ずつで、残りの6割はもめるというのが実感です」と、内田氏は言う。
こうしたトラブルを回避するためには、どんな準備をしておけばいいのか。武内氏も内田氏も、「まずは被相続人が、きちんとした遺言書を作成しておくこと」と口をそろえる。