凡作を量産する「30%ルール」の罠
こうした事例から学べることは、「バランスを意識しすぎずに、理想のゴールから逆算する」という姿勢です。原価率の30%という数値は過去の膨大なケースから導かれたある種の黄金律ですから、目安として機能することは間違いありません。しかし、最初にそのバランスを意識しすぎると、アウトプットがつまらないものになりかねません。
以前、料理の商品開発で2つの対照的なケースに立ち会ったことがあります。1つは大手外食企業の商品開発部による試作です。同社では30%に近い数値に定められた、原価に対する社内ルールがあり、メンバーはその数字を強く意識しています。例えばエビを使ったサラダを考える際には、「この小エビは1尾10円だから、この値段でサラダを売るためには10尾以上使うことはできない」という理屈になるのですが、こうしてレタスやチーズやトマトなどの原価を積み上げてできたサラダは、特に印象に残ることもない「普通の一品」になってしまっていました。
一方で、とあるワンマンオーナーの外食企業では、オーナー社長の「もっと迫力あるようなものをつくれ」というイメージから開発が始まります。現場の開発スタッフは、その理想を実現するような形で食材を入れ替えてみたり、あるいは別の調達ルートをあたってみたりして、何とか帳尻を合わせるように商品を完成させていきます。2社のやり方のうち、どちらのメニューの方がお客にとってのインパクトを感じてもらえるかは考えるまでもありません。
「バランス」というのは、大人になればなるほどその重要性を感じる大切なキーワードであるのは間違いありません。しかし、時にそのバランスから一旦外れて発想してみるということも、必要なのかもしれません。バランスを取ろうとすればバランスを失い、バランスを無視すればむしろバランスが取れるという、ある種の逆説を感じてしまうこともあるのではないでしょうか。
子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食コンサルタント。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/