生ビールは売り上げの約2割
居酒屋チェーン大手のワタミが生ビールの値下げに踏み切ったのは、ことし2月。「和民」ではサントリーのモルツ生の中ジョッキを63円下げて418円とした。和民では、昨年3月、中ジョッキを40円値上げしているが、今回の値下げは、それを上回る額となっている。また、「坐・和民」でも、サントリーのザ・プレミアム・モルツの中ジョッキを105円下げて523円とし、サワー類も105円下げて418円とした。
店舗の売り上げの約20%を占める主力商品の生ビールを値下げする第一の目的は、客を呼び戻すことであろう。ワタミグループ全店の月次ごとの総来店客数は、2008年9月から前年同月を下回り続けている。
外食産業の動向に詳しい、いちよし経済研究所第一企業調査室長の鮫島誠一郎氏は、「景気が急速に悪化しているので、価格を下げて来店頻度を上げることがポイント。一定の集客効果はあるでしょう」と見ている。
ワタミの外食事業部門ワタミフードサービスの社長で、この6月にワタミの社長に就任する桑原豊氏も、「お客様は価格に敏感なので、早く手を打っておくことが大切だと考えています」として、客数の増加が狙いであると認める。一方、「ただし、客数の回復には半年前後の時間がかかると見ています」と話す。
「居酒屋の価格帯でいちばんわかりやすいのがビール。ガソリンスタンドのガソリンと同じです。私どもは、料理は安いという評価はお客様からいただいています。逆にいえば飲み物、つまりビールは高いということにもなる。ワタミの価格というものをはっきり表現したかった」
生ビールの値下げ分のワタミの負担額を、桑原氏は「年間12億円」とする。鮫島氏は「ワタミには規模のバイイング・パワーがあるので、ビールの仕入れ値もかなり安くなっているのではないか」と推察する。他の居酒屋チェーンに追随する動きがない理由のひとつともいえる。
生ビールを値下げする一方で、料理メニューを全面的に改めた。和民と坐・和民で異なっていたメニューを統一し、品目数を85から74に絞り込んで食材も見直しし、品質を下げずにコストダウンを図ったという。国内で約600店を展開するワタミのスケールメリットを発揮させながら、減収であっても増益を堅持できる経営体質を目指したと見て取れる。74品目のうち、改定前と同じ料理は4品目であり、70品目は装いを変えたり、ボリュームを増やしたりしている。たとえば、串刺しの焼き鳥は、サイコロステーキのような鉄板焼きスタイルに変えた。
「生の焼き鳥の原価のうち、鶏肉とねぎの食材費は半分。残りの半分は、串のコストと、具を串に通す人件費なんです。串から外して召し上がるお客様が多く、串刺しになっていなくてもいいのではないかと考えました。熱い鉄板に載せることで冷めにくくなっています」
桑原氏が紹介する「若鶏ねぎ塩だれ」は、串焼きよりも増量しつつ、105円値上げした。
生ビールを値下げしつつ料理メニューを全面的に改定してから1カ月半がたった時点で、客1人あたりの平均オーダー数は0.3皿増えた。他方、客単価は約20円の減少となった。桑原氏は、「ほぼ想定していたとおり」と満足げに微笑む。生ビールが最も売れる季節に先駆けた値下げを客がどう評価するか。桑原氏がワタミ社長として初めて迎える今夏、その結果が明らかになる。