かつて経済を動かす資本は天然資源や労働力だった。だが、米国では1960年代以降、エンジニアなどクリエーティブな社員が競争力の糧となっていくにつれ、個人の才能(タレント)に対して巨額の報酬が支払われるようになった。このように人の才能を資本とする経済を「タレント・エコノミー」と呼ぶ。
才能への報酬は歓迎されるように思われるが、昨年、元トロント大学ロットマン経営大学院学長のロジャー・マーティン氏が、高額報酬を受ける人が増す一方、その他の人々の賃金下落など、タレント・エコノミーの負の側面を指摘し、注目された。
この背景について、同氏の論文を翻訳した倉田幸信氏は「『ウォール街を占拠せよ』のような格差への感情的な運動が下火になり、いま反発を抜きにした純粋に論理的な警告が起きている」と語る。しかし、自由競争を制限するのは米国では至難の業。学者たちは「極端な報酬制度が社会を不安定にし、結果的に社会全体を劣化させる」という理論的検証により、社会的なコンセンサスを得ようとしているというわけだ。
同じ問題が日本でも起きようとしている。「たとえば米国企業が日本進出にあたり、新浪剛史氏を年30億円で雇おうとしたら? サントリーが彼への報酬を引き上げることは正当化されるだろう」(倉田氏)。
(AFLO=写真)