さて、実際に老親が認知症と診断されたらどうすべきか。特に“遠距離介護”は大変だ。
「田舎から息子や娘の家に親を呼び寄せても、よくなることはないんです。例えばお嫁さんとの関係が悪いとよけいに悪化する。環境が変わって友達がいない、畑がないといったことが大きなハンディになります。
軽度のうちは田舎で暮らしてもらったほうがいい。もちろん、軽度とはいえ1人にするのは何かと心配でしょう。
だから地元の人たちを味方につけるんです。『最近、物忘れが出てきて困っているので、ちょっと声をかけてやってください』『ときどき様子を見てください』とお願いするのです。新聞配達のおじさんでもヤクルトのおばさんでもいい。宅配方式の食事を頼めば、栄養バランスも取れて、毎日の安否確認にもなる。
近所に友達が3人いるなら、例えばAさんには月曜、Bさんには水曜、Cさんには金曜だけ見にいってほしいと菓子折りを持っていって頼むだけで、週の半分は何とかなる。
とにかく、ありとあらゆる形でコンタクト数を増やすことです」
また、最近では、小規模多機能ホームという制度もある。要介護の高齢者が自宅で生活を続けられるように、通い、泊まり、訪問の3種のサービスを組み合わせて利用できる在宅介護サービスだ。
「来週だけ泊まりということもできる。薬の服用状況を確認するサービスもある。24時間体制なので、安心して在宅生活が送れる」
ついこの間まできちんとしていた親が突然、ずぼらになったり、失敗を繰り返したりするようになると、子供としてはどうしても感情的に怒ってしまいがちだ。
「怒ってはいかんのです。笑顔で接すること。怒ればよけい症状が悪くなります。日付を間違えても、大丈夫なのかよなどと追及しない。病気なのだから、症状として受け止め、冷静に物事を見る姿勢が大事です」
誰が見ても認知症といえる状態になってからでは遅い。少しでも気になることがあったら、すぐに診断を受けさせる。少しでも病気の進行を遅らせることができるのなら、それも我々にできる親孝行の一つといえるだろう。
1982年、滋賀医科大学卒業。87年名古屋大学医学部大学院修了。総合病院中津川市民病院内科部長、国立療養所中部病院内科部長などを経て現職。著書に『地域回想法ハンドブック』(河出書房新社)、『やさしい患者と家族のための認知症の生活ガイド』(医薬ジャーナル社)など多数。医学博士。老人病専門医。