「放置」された学生が考案した復讐とは?

なぜそんな事態を招いたのか。

8月選考開始という形式遵守の裏でその前に実質的選考を始めたからである。

新卒採用企業は1万5000社程度とされるが、経団連加盟企業は1300社。その中でも以前の倫理憲章の署名企業は700社程度にすぎない。多くの企業が選考に動いているのに指をくわえて見ているのはまずいと思ったのか、経団連の一部の役員企業を除いて、ほとんどの企業が早期選考に動いた。

3月解禁後に大手企業は学内説明会を実施。4月から企業内説明会が開催され、5月以降、水面下の面接が始めた企業が多い。説明会の場で学生と接触し、“面談”という名の選考をスタートさせた企業もある。食品業の人事担当者はこう語る。

「例年の説明会は企業紹介の映像を見せて、その後に若手の社員と会場の学生との質疑応答で終わるのですが、今年は第2部を設け、社員と複数の学生の座談会を開催した。社員に○×△をつけてもらい、5月以降から社員が○をつけた学生を呼び出し“就活アドバイス面談”という名目で人事と1対1で会い、選考に入りました。5~7月にかけて合格者を絞り込みました」

手法は別にしても同様の動きは多くの大企業でも見られた。ある業界では十数社の人事担当者が集まり、「選考開始時期は5月」と“談合”で決めたところもある。当然ながらそうした情報は学生に知らされないし、就職ナビサイトには相変わらず8月1日選考としか記されていない。

そして、ほとんどの大手企業は8月1日もしくは第1週目で内々定を出し終えた。リクルートキャリアの調査では8月1日から15日までの間に内定(内々定)を取得した学生の割合は44.4%。従業員規模5000人以上の企業が40.2%と最も多いことでもわかる。

▼「貴社のさらなるご発展をお祈り申し上げます」

だが、水面下で進行した選考の裏でサイレントのまま放置された学生も多い。建設関連業の人事担当者こう語る。

「4月の説明会以降、何らかの名目で学生と面談したが、選考はしない建前になっています。実質的には模擬面接による○×をつけて落としていくわけですが、8月1日までは不合格ですと通知することができない。合格した学生には、今度会いましょうと言えるが、不合格者は放置するしかありませんでした。当社は8月1日段階で不合格の通知を出したが、学生によっては3カ月も音沙汰なしだったことになる。しかし、一切通知しない完全なサイレント企業も多かったようです」

もちろん学生も面談が実質的な選考であることは知っていたはずだ。だが、不合格通知がこないので次の対応もできない。「学生にとってはどの会社に落ちて、どの会社とつながっているのかわからないために精神的疲労度も相当高かったようだ」(就職コンサルタント)という声もある。

そうした冷酷な企業の対応にもめげず就活に奮闘した結果、複数の内定をもらった学生の中には、内定辞退をお祈りメール形式で送った者もいるらしい(「末筆ではございますが、貴社のこれからの一層のご発展をお祈り申し上げます」)。

送られた企業はきっと怒り心頭だろうが、学生はささやかな復讐のつもりなのかもしれない。何せ、「サイレントお祈り」の企業に対する恨みをその後も抱き続けるケースも少なくないようだ。

学業優先で決まった就活の後ろ倒しが形骸化し、結果的に多くの学生を疑心暗鬼と不安に陥れ、学業どころか精神的負担も与えてしまった。

こうなってしまった責任は経団連にあるのか、あるいは要請した安倍首相なのか。責任が問われず、改善策が示されないまま、2017年卒の就活でも同じ悲劇が再び繰り返されることになる。

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