ある芸人さんが「どうぞみなさん、ぼくで遊んでください」って思って毎日生きているんだよと言っていたのですが、そういう観点に立つと「本当の自分はこうじゃないのに」という葛藤から解放されます。お笑いに関わる人は「笑わせるのは好きだけれど笑われるのが嫌い」とよく言いますよね。「笑わせる」には、意図があって、「笑われる」には意図がない。つまり「笑われる」のは不意打ちなんです。

スマートフォンとSNSが普及したいまの世の中は「不意打ち」だらけ。なんでもかんでもフェイスブックやツイッターにアップする「シェア癖」がある人がうようよいる。SNSにはふつう「ありのままの自分」ではなくて「それ用の自分」を準備して出していると思うのですが、そうでないものが突然共有されると不意打ちされている感じになりますね。

卒業アルバムの写真を勝手にみられるのもそういう感覚に近いんじゃないかと思います。思春期の顔が修正なしにさらされるってそんなに嬉しいことではないですよね。でも不意打ちを避けて通れない一億総パパラッチ時代には、自分のセルフイメージと一致しない自分のことをおおらかに受け入れていける人の方が社会的に優位に立てそうな気がします。

結論としては、卒業写真の件も、そのための修行だと思って耐えましょう、ということでしょうか。相談者はいま20代ですがこの先40代、50代と年齢を重ねていけば、不本意な写真をシェアされてしまうことに苛々している自分をパンダのように外から見て面白がることができるようになってくるんじゃないかと思います。

為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。
http://tamesue.jp