トータルなガバナンスを考える必要がある

――「国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等及び外国公館等の周辺地域の上空における小型無人機の飛行の禁止に関する法律」の意味は?

ドローンが官邸に落ちなかったらどうだったか、という面はありますが、まず一歩ですね。その直後、政府が閣議決定した航空法改正案では、「無人航空機」という概念を新設して、いくつかの規制策をあげています。家屋の密集している地域上空などの飛行禁止空域を設定し、飛行は日の出から日没まで、目視により常時監視しつつ飛行させること、祭礼や縁日、展示会など多数の人が集まる場所の上空では飛ばさないこと、などを盛り込んでいます。完全に無人の自律飛行を禁止し、物資の投下も禁じています。米連邦航空局の規制案にほぼ沿ったものです。

法のあり方で言うと、地上とそれに付属する建物、ある高さまでの空域は所有権の範囲内で、勝手にそれを侵すことはできません。無断で家に入れば住居侵入罪で逮捕されます。一方である高度以上は、もちろん航空法の規制は受けますし、航空会社やパイロットには厳しい制約も課せられていますが、ともかく航空機が自由に飛行できる。

そういうふうにして両者のすみわけができていたわけですが、ドローンはこの境界(矛盾)を破る恐れがある。それが新たな規制問題をクローズアップしているわけです。これからのロボット時代が生み出す難題の言わば序章です。

――どんどん細かくなる法規制が私たちの生活を息苦しいものしてしまう恐れはありませんか。ドローンを操縦していた少年を威力業務妨害罪で逮捕するなど、ちょっとやりすぎだと思いますが……。

たしかに筋がよくないですね。何か事故があると、日本の場合とくに、末端(事故現場)での処理を厳しくしがちですが、そうではなく、全体的な視野、トータルなガバナンスを考えることがいよいよ大事になっているのではないでしょうか。

【関連リンク】
<1>ワイアードが紹介したドローンによる拳銃発射動画
http://wired.jp/2015/07/22/drone-fires-gun/
<2>ネパール大地震のドローン映像
http://www.huffingtonpost.jp/2015/04/27/nepal-drone_n_7156502.html
<3>軍艦島撮影のソニープロモーションビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=73B5Dv0aNJM&feature=youtu.be

<連載にあたって>サイバーリテラシー研究所代表・矢野直明

インターネットが普及して以来、社会はどのような事件に見舞われることになったのか。私は2013年に『IT社会事件簿』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を出版し、それまでに起こった内外の事件事故26件を点検しながら、IT社会を生きるための教訓をくみ取ろうとしてきました(2014年に携書版発行)。

 その後も事件は続発、技術の進歩にともないその形態も、投げかける問題も様々ですが、このたび「サイバーのぞきメガネ」と題する連載を始める機会をいただきました。

事件の正確な記録をめざすと同時に、関連コメントなどを配するのは従来と同じですが、新たに事件の当事者や専門家などのインタビューを加えたいと思っています。またオンラインマガジンの利点を生かして、いくつかの関連リンクも付記しています。前回連載「サイバーリテラシー・プリンシプル」同様、ご愛読いただければ幸甚です。

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