百貨店業界全体に明るい兆しが見えてきた。1つはインバウンド需要。2014年の訪日外国人数は過去最高を記録し、百貨店はその消費の受け皿として、大きな恩恵を受けている。もう1つが、アベノミクスの株高による富裕層の消費回復。富裕層は百貨店の主要顧客であり、その消費意欲が高くなってきているのはポジティブ要因だ。

もちろん、ボリュームゾーンである中間層の消費はまだ戻っていないが、これは最近始まったことではなく各社想定内。それよりも、これまでにないプラス材料が出てきていることを前向きに捉えるべきだろう。

特にインバウンド需要については、積極的に取り込もうと様々な戦略をとっている。売上高で業界のトップを走る三越伊勢丹ホールディングスは今秋、日本空港ビルデングなどと設立した合弁会社で「市中免税店」を開業する。通常、百貨店は消費税を免税する“タックスフリー”にとどまるが、市中免税店は関税、たばこ税、酒税なども免税する“デューティーフリー”。特殊事例の沖縄を除いて、空港以外で出店するのは国内初だ。出店は三越銀座店の8階で、既存の売り場と競合するのではという懸念やリスクはあるものの、新しい試みとして注目を集めている。

また、インバウンド需要は大阪やその他地域にも恩恵が拡大している。業界2番手で、全国各地に店舗を持つJ.フロント リテイリングは、今後よりその恩恵を受ける可能性が高い。

そのJ.フロントは、松坂屋銀座店の跡地で森ビルなどと共同で再開発を進めており、来年末開業予定。松坂屋上野店南館も建て替えを進めているが、どの店舗も立地の良さを生かしてテナントを積極的に誘致しており、オールドスタイルの百貨店事業を強化している三越伊勢丹とは対照的。3番手の高島屋の戦略は両者の中間と言える。各社の方針の違いにも今後注目したい。

(構成=衣谷 康)
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