Q6 女性上司に反発していいか
【貞鏡さんの答え】

講談には女性を主人公にした「毒婦伝」というジャンルがあります。

たとえば『阿部定』。これは、昭和11(1936)年、東京・荒川で、仲居の阿部定が性交中に情夫の首を絞めて殺し、局部を切り取ったうえで、それを逮捕されるまでの3日間、持ち歩いたという猟奇的な事件です。

また2013年9月にテレビドラマも放映された『八百屋お七』。天和2(1682)年の大火で焼け出された江戸本郷の八百屋の娘お七が、避難先の寺小姓と恋仲になり、その1年後、男に会いたい一心で、自宅に火をつけ、捕縛され、火刑に処されたという事件です。

いずれも女性ならではの情念を感じさせられる物語で、私にも共感できるところがあります。もちろん彼女たちの行為は犯罪なのですが、その背後にあるのは、誰かを深く愛してしまうという純粋な気持ち。彼女たちは悪女ではなく、あまりに純粋なゆえに、局部を切り取ったり、火をつけたりしたのだ。そう解釈して、演じています。

いま日本にいる講談師は70人強。その半数以上が女性です。女性の講談師が増えている背景には、「女性の情念」を演じることへの共感の広がりがあるからかもしれません。

女性上司に反発するかどうかを決める前に、ぜひ講談で、女性の情念の深さを知っていただきたいです。何度も申しますが、人の一念、特に女性の想い、母が子を想う気持ち、男性への愛情、嫉妬の念は、何よりも強く、時と場合によっては非常に恐ろしいものになりますので……。

守屋 淳(もりや・あつし)
1965年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大手書店勤務を経て、作家として独立。主な著・訳書に『現代語訳 論語と算盤』『ビジネス教養としての「論語」入門』などがある。
 
一龍齋貞鏡(いちりゅうさい・ていきょう)
1986年生まれ。父が8代目一龍齋貞山、祖父が7代目一龍齋貞山、義理の祖父が神田伯龍であり、世襲制ではない講談界で初の3代続いての講談師。2012年二つ目昇進。
 
(山川 徹=構成)
【関連記事】
上司を味方につける「奸智」の力8
『戦争論』『孫子』……
これが「激戦期の血路を開く」知恵だ【1】
なぜ「できる人」より「好かれる人」が出世するのか
兵法三十六計「無から有を生む」奇手とは
わが社の「ついていきたい」女ボス、「ヤバすぎる」女上司