第9条の「戦争放棄」にしても、今の日本が置かれている国際社会の状況にはそぐわない。だから条文を拡大解釈せざるをえなくなるのだ。近隣諸国とこれだけ揉めて、偶発戦争が起きかねない状況で、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という文言が通用するのか。「武力で紛争を解決しない」というのなら、代案を示すべきだろう。
現行憲法の問題点を挙げればきりがないが、こうしたことに気づいたのも自分でフレームワークを作って白い紙の上に「私ならこういう項目をこのように盛り込む」という態度でゼロベースの憲法を書いてみたからである。誤文訂正のような憲法論議ではそういう発想は出てこない。フレームワークに基づいてチャプター取りをしていくと、現行憲法に足りないもの、整合しないものが見えてくる。
自分で憲法を組み立てたときに一番扱いに困ったのは天皇についてである。「人間は生まれながらにして平等である」という世界人権宣言からスタートして「主権在民」を旨とする、と憲法を書き始めると天皇を定義するときに矛盾が生ずる。そこで駐留軍は冒頭(第1章)に象徴天皇制を置くしかなかったものと思われる。もっともこれは伊藤博文の起草した明治憲法と同じ構成で、「以下に述べる憲法は御意の限りにおいて成り立つ」、という絶対君主制を宣言する文である。私が書いた憲法には天皇制は盛り込まれていない。天皇の存在は、自然法の中で2000年以上も続いてきたもので、国家と国民の関係を定義する憲法で天皇制を取り扱うべきではないと考えるからだ。
(小川 剛=構成 市来朋久=撮影 AFLO=写真)