フレームワークを作り、構成要素を当てはめる

当事者になったつもりで課題解決の筋道を考える。これはプレジデント誌連載の「日本のカラクリ」で行っているような政策提言においてもまったく同じである。「日本国株式会社」の経営者として日本をよりよくするためにどうしたらよいか、という視点で常に政策を考えているのだ。

たとえば安倍政権が目指しているとされる憲法改正の問題。私は改憲派でも護憲派でもない。言うなれば「創憲派」で、憲法をゼロベースで作り直すべきであるというのが、かねてからの主張である。

今から20年以上前に、『平成維新』(講談社)で自分なりの憲法を書いてみたこともある。アメリカの独立宣言を書いた第3代アメリカ合衆国大統領トーマス・ジェファーソンになったつもりで、大前流の国家運営の基本理念を記した。著名な憲法学者からも「こんなものは初めて見た」と驚嘆されたのだが、なぜ学者でもない私にそんなことができたのか。それは憲法について私なりの「フレームワーク(枠組み)」を持っていたからだ。

「憲法改正は、自民党結党以来の宿願」と安倍首相は熱意を燃やすが、大前氏は憲法をゼロベースで作り直すべきと考える「創憲派」である。(写真=AFLO)

日本で憲法論議というと第9条の解釈ばかりが問題になり、フレームワークに関する議論は圧倒的に少ない。今の日本に必要な憲法はどのようなものか。憲法にどういう項目があればいいのか。そうしたフレームワークの議論からスタートするべきというのが私の考えだ。『平成維新』を書いた当時、私はマッキンゼーにいたが、実際に「ゼロベースの憲法作り」を新人研修の一環として取り入れた。

真っ白な紙の上に今の日本にふさわしい憲法を書く場合、やらなければならない作業が少なくとも3つある。1つは、世界の中で日本が置かれている立場を知ること。2つ目は、憲法が制定された当時の日本と今日の日本の違いを認識すること。3つ目は、世界の憲法を勉強することだ。新人研修でそうした作業をさせ、自分自身で世界の憲法を調べてみると、憲法の概念というものが国によって驚くほど異なることがわかった。たとえばスイスやイタリアでは「社会におけるテレビの役割」まで、憲法に書かれている。イギリスの自然法を含めた世界中の憲法を勉強すると、国の基本法である憲法で定義しなければならない項目とは何か、つまり憲法のフレームワークと構成要素が見えてくる。フレームワークを作り、構成要素を当てはめていくと、憲法に必要なチャプター(章)もわかってくる。