グローバル化を成功させる秘訣とは
海外では、日本での常識はまさに非常識です。たとえば、日本人は自分が持つスキルを部下や後輩に教えますが、海外では自分が持つスキルは自分の財産ですから、それを人に教えるなど絶対にしません。日本の常識は海外ではまったく通用しないのです。
そのようななか、私たちがグローバル化を成し遂げることができたのには、秘訣があります。日本的な経営をどこまで現地に根付かせることができるか。これがポイントだと思います。
海外には年功序列のシステムがなく、同一職種、同一賃金が基本です。つまり、同一職種においては、仕事に熟練した人がいくら生産性を上げても、賃金を上げるわけにはいきません。これは年功序列に慣れ親しんだ日本人にとっては、おかしな話に思えます。そこで私たちは、海外の子会社に年功序列を持ち込みました。1年目よりも2年目、2年目よりも5年目の従業員の給料を少しずつ上げていったのです。そうすることで、少しでも長く働こうとする従業員が増え、離職率が低下しました。勤続年数が長くなれば、会社への愛着も湧いてきます。「会社のために頑張って働こう」という意識も持ってもらうことができました。
海外にはなかった、賞与やボーナスの制度も導入しました。たとえばアメリカでは、クリスマス前に平均500ドル(約6万円)のボーナスを支給していますが、彼らにとって6万円の臨時収入は大きく、みんな大喜びです。なぜなら、この6万円でクリスマスプレゼントを買うことができるからです。日本人ならボーナスに50万円を支給しても「少ない」と文句が出るかもしれませんが、海外では6万円のボーナスで従業員が喜んでくれる。ボーナスという制度をうまく活用しない手はありません。
給料に関することだけでなく、仕事のやり方も日本式を浸透させていきました。日本のセーレンでは、「現場」「現物」「現実」「原理」「原則」を重視する5ゲン主義を徹底しています。5ゲン主義を実践するには、現場を第一に考えることが大切であり、管理者には現場がしっかりと付加価値を生み出せるよう監督する責任があります(連載第2回 http://president.jp/articles/-/14461 参照)。
ところが、海外の工場では、工場長はほとんど現場を見に行きません。問題が発生したら、担当者を工場長室に呼びつけるだけです。そうではなくて、現場で問題がないかをよく見て回り、現場がやるべきことを正しくできるよう管理監督するのが工場長の仕事であることを教える。仕事のやり方を変えていく。日本的な経営を現地にうまく取り入れていくことが、グローバル成功の秘訣だと思います。