今の野党は憲法の基本と歴史がわかっていない

【塩田潮】集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法案が7月16日、衆議院本会議での自民党と公明党の与党単独による採決で可決し、参議院に送付されました。かつて長く国会運営に関わってきましたが、この状況をどう見ていますか。

【平野(元参議院議員・元自由党参議院国会対策委員長)】悪い法案を出した自民党はオーソドックスな戦略・戦術で野党を攻め立てていますが、野党がまったく駄目ですね。集団的自衛権は、限定的であっても違憲であり、戦後70年、憲法第9条の歯止めとなってきた。憲法改正を党是とする自民党もそれを守ってきたのですが、その意義を自民党が壊そうとしています。ところが、野党側が問題の本質についてわかっていない。

平野貞夫氏(元参議院議員・元自由党参議院国会対策委員長)

国会の論戦を見ていると、自民党の枠に入ってしまって、法文の言葉の遊び、やり取りになっています。憲法の真意とは何か、それが戦後政治の中でどういうふうに生きてきたか、現在の国際情勢と国内情勢の中でどう位置付け、方向付けるのが適切かという三つの角度から議論しなければならないのに、文言だけの議論になっているのが情けない。

1960年の岸信介首相時代の日米安保条約をめぐる論争以来、論戦をずっと目の当たりにしてきましたが、安保条約の運用について、野党の人たちとの議論がブレーキや歯止めになってきたという実績があります。だが、今の野党は、国をどうするか、憲法の意義がどういうものかについて、基本と歴史がわかっていない。それを痛感しました。

【塩田】集団的自衛権の行使容認と安保法案の成立に懸命な安倍晋三首相の発想、事情、猛進する理由をどう見ていますか。

【平野】祖父の岸元首相に対するファミリー・コンプレックスの裏返しと分析する人が少なくありませんが、私は間違いだと思います。安倍首相の思考回路が非常に不安定で、病的なものがあるとすれば、それを利用している日米双方の「安保コングロマリット」の操り人形になっているのでは、と見ています。弱肉強食の資本主義を推し進める資本家を背景に、日米の官僚、官僚出身の政治家たちがコントロールしている。私も自分の政治経験の中で、かつてその一部の人たちと議論したり、仲間だったことがありますから、よく見えるんですが、安倍首相はきちんとした哲学や思想、理念があってやっているわけではなく、そういう人たちに踊らされています。

アベノミクスもその構造の一つですが、競争中心の弱肉強食型の資本家たちは、軍事や軍備拡大によって経済成長を図ろうとしています。過去、軍備拡張がどれほど人類を不幸にしたかといったことは、彼らはどうでもいい。そういう背景を私は感じます。

【塩田】安倍首相は筋金入りの改憲論者で、明確に憲法改正を目指していますが、現憲法の解釈変更で集団的自衛権の行使をやろうとしています。解釈変更で可能なら、改憲しなくても集団的自衛権は行使できるわけだから、憲法は変えなくてもいいのでは、という声が起こりかねません。安倍首相の憲法改正に対する姿勢と考え方をどう思いますか。

【平野】一種の異常情況ですから、あの人の言っていること、やろうとしていることを論理的に分析しても駄目です。改憲が困難だから、集団的自衛権の問題も解釈変更で解決しようというわけですが、わかっていて嘘をついているのか、わからずに言っているのか、そこもわかりませんよ。安倍首相には憲法をどうするかという論理と思考ではないんです。感情的には、憲法を改正してもしなくても、どうでもいいのでは。事実上、戦争ができる国にするという点に力点があるのではないかと思います。