リストラや配置転換という「苦痛を伴う」変化は、社内の会話を重苦しいものにする。マネジャーは危機感を煽って我慢を強いるだけでなく、こんなときにこそ部下のやる気をつなぎとめ、希望を引き出す会話を心がけなくてはならない。
叱咤激励だけでは組織は萎縮する
変革に関する職場での会話を巡って新たな緊急課題が生じている。事業再編、ダウンサイジング、製品グループの転換などにより、全レベルの社員が、彼らの職務の定義が見直されたこと、これまでよりも少ない資源でさらなる業績を挙げる必要があることなどを告げられている。
こうした会話の中で容赦なく収益優先に走るマネジャーは、このような変革を巡っていかに多くの不安や抵抗が生じているのかを見過ごしていないだろうか。これは、有能な人材を失い、自らの部署を混乱に陥らせかねない大きな過ちとなりうるものである。
では、社員が変革のプロセスを切り抜けるばかりでなく、それを脱却して成果を挙げるためには、どのような手助けをすることができるのだろうか。社員が厳しい情勢下にあってもチームとして機能し続け、変革を支持し、お互いをサポートし合ううえで、いかに社員の力になれるのだろうか。
それは、枠組みを転換する、変革に関する会話の在り方を変える、ということに尽きる。建設的な質問を中心に据えたプロセスを活用すれば、マネジャーは社員と協力して彼らの抵抗の源である信念、先入観、そして不安を明らかにし、それらに対処することができる。こうした質問は、思考パターンを組み直し、新たなプロセスや目標を推進する個人の、そしてチームの努力を整合させるのに役立つ。しかしこのような会話を社員と始める前に、マネジャーはまず変革がなぜこれほどまでに難しいのか、その理由を考えてみることが必要だ。
[1] 変革においては、社員はいかに自己を定義するのかが問われる
大手保険会社の営業マンは、かつては新規顧客の開拓に1軒1軒訪ね歩いたものだ。しかし、これはコストのかかる手法である。そこで会社はコンサルタントを雇い、営業手段として最初は電話を使い、契約がまとまりそうな場合に限って顧客を訪問するという方式で営業マンを訓練したところ、売り上げは急増した。
しかし営業マンは反発した。なぜか。日常業務の大幅なシフトは、彼らの自己認識と齟齬を来すからだ。突然、自分が望む以上に長時間オフィスに留まり(彼ら曰く「自分は現場で働く営業マンだ」)、かつてないほど電話を取り(彼ら曰く「テレマーケティングは俺の仕事ではない」)、そして受けたくもない指導を受けるようになった(彼ら曰く「自分にはいちいち細かい指示は不要だ」と訴える)というわけだ。