ムーミンで女性客を呼ぶ
ブランド化戦略の第1弾として始めたのがムーミン列車である。何しろおカネがなく、手段は限られていた。キャラクターを車両に張るだけなら版権料を払ってもそれほどコストはかからない。鳥塚はムーミンを選んだ理由を「自然を愛し、家族みんなで仲良くお花畑で暮らしている」「ムーミンの世界では勝った負けたはなく、相手を尊重し、優しく接している」からと語る。また、ムーミンファンは30代以上の女性に多く、ターゲットと合致した。
09年10月からムーミン列車が走り始めると、話題となり、土日に30~40代の女性観光客が訪れるようになった。ムーミンの携帯ストラップやキーホルダーなどグッズも開発、いすみ鉄道の車両を模したもなか、揚げせんべいなども売り出し、好調に売れるようになった。
この他、枕木にメッセージと名前を入れる「枕木オーナー制度」、会員証や1日フリー乗車券がもらえる「車両サポーター制度」などさまざまな仕掛けを打ち出していく。
こうして、輸送人員は1.6倍(普通客が1.2倍)に増え、売店収入も前年の4倍に達した。再生委員会はその成果を見て、いすみ鉄道の存続を決定した。
10年3月には鳥塚のアイデアで「運転士訓練生募集」を発表した。その訓練費700万円は自己負担という驚きの内容で、話題となった。
誰が一体応募するのかと思いきや、第1期生は6人が応募し、4人が採用された。意外なことに鉄道ファンだけでなく、65歳まで安定して働ける仕事だと考えて応募した人たちもいた。4名とも免許を取得し、運転士となった。
観光鉄道に脱皮したいすみ鉄道だが、鳥塚は鉄道として儲けようとは考えていない。集まったお客たちを沿線地域で、もてなすことで地域を活性化したいと考えている。
「ローカル線は素材ビジネスで、我々がそれを提供し、お客さんが楽しみ方を決める。それがローカル線の役割だと思います」
これだけの観光客を集めながら、鉄道の運営が決して楽になったわけではない。だが、沿線地域は確実に賑わうようになり、住民はそれを喜んでいる。鳥塚はそのことにやりがいを感じているようだ。
(文中敬称略)
●代表者:鳥塚亮
●創業:1987年
●業種:鉄道事業、旅行業
●従業員:32名(パート含む)
●年商:2億2700万円(2014年度)
●本社:千葉県大多喜町
●ホームページ:http://www.isumirail.co.jp/