「JT自販機」買収の成否が意味すること
JTの自販機事業の売却を巡っては、サントリー食品に加えて、国内飲料3位、5位に付けるアサヒ飲料、キリンビバレッジというビール大手系の飲料会社などが名乗りを挙げていたとされる。サントリー食品は買収する2社のうちのジャパンビバレッジホールディングスの第2位株主であり、他社に買収されれば、逆にサントリー食品は窮地に追い込まれていた。その意味で、自販機が設置される“軒先”争奪戦を制した価値は、買収額以上に大きい。
ただ、09年に仏オランジーナ・シュウェップス、13年には英グラクソ・スミスクラインの飲料事業と立て続けての買収に踏み切った後の大型買収だけに、鳥井社長の経営手腕も問われてくる。目標に掲げる「2020年度に売上高2兆円」の達成に向けても、「今回の買収により1000億円強の売り上げ拡大につながる」(鳥井社長)だけであり、引き続きM&A(企業の合併・買収)戦略を進めなければならないはずだ。
とりわけ、サントリー食品はグループで唯一の株式上場会社であり、その意味でも投資家の見る目は一段と厳しくならざるを得ない。さらにその成否如何は、サントリーHDの次期トップ人事をも左右する。鳥井氏はサントリー創業者の鳥井信治郎氏のひ孫に当たり、同族色の濃いサントリーにとっては、行く行くは現在の佐治信忠会長の後継と目されてきた。
しかし、年齢も若く、経営者としての経験も足りないとの判断もあって、サントリーHDは昨年10月、ローソン社長の新浪剛史氏を社長に迎え入れた経緯がある。この“電撃移籍”は、鳥井氏へバトンタッチする「つなぎ」と、一般的にも受け止められている。その意味でも、今回のサントリー食品によるJTの自販機事業の買収の成否は、サントリーグループ全体の今後を占ううえで大きなターニングポイントとなる。