ビジネスパースンにより身近な記憶力の鍛錬法も挙げておきましょう。

仕事上、TOEICで一定以上の得点が求められるような場合は、自分をなるべく英語の情報に囲まれた環境に置くことです。具体的には、自宅に「英語の部屋」をつくる。目や耳から入るものがみな英語となる空間をつくり、そこで勉強する。あるいは、書店に行った際は必ず最後に英語のコーナーに立ち寄ってから帰る。背表紙を眺めたり、何冊かを手に取ったりしてコーナーの環境に身を置く、等々がいいでしょう。

私自身、国語が苦手だった受験生時代、東京・神保町の古書店街の裏に下宿を構えて、極力、書店で本と接するように心掛けた経験があります。「孟母三遷(もうぼさんせん)」ですね。勉学に適した環境を求めて転居するのです。脳番地はその役割と関連する情報に数多く出合うことで伸びるのです。

一段飛ばしで階段を下りてみる

時間を意識することによって刺激されるのが海馬です。その典型例がデッドラインの設定でしょう。タクシーや電車に乗っているとき、目的地に着くまでの間に「これを覚えよう」と決めて学ぶと、効果が上がります。毎日、通勤の電車内で英語の文例を、数を決めて覚えようと決めて実行すれば、成果も上がり記憶力もアップします。

ただ、いくら刺激によって成長するといっても、刺激そのものがマンネリ化すると効果が落ちます。

仕事にマンネリを感じているビジネスパーソンが脳に刺激を与えたいと思った場合、最も効果的なのは自分が番好きな年齢、たとえば入社数年目などを選んで、その年齢になったつもりで過ごしてみることです。

常に部長やベテラン課長の目線で物事を考えていると、過去の経験値が邪魔して、改革するという目線が持てません。若手社員になったつもりで周囲を見渡すと、知らないことに挑むという新しい刺激が得られ、脳がさらに成長しようとするエネルギーが旺盛になります。

日常の中で私自身が実行していることですが、階段を下りるときに1段飛ばしで下りてみる。1段飛ばして上るのは案外難しくはありませんが、下りるとなると、まったく新しい注意力や動作、筋肉の使い方が必要なので、脳にとって新しい刺激になります。年を重ねると、そういうことこそが脳の育成に繋がるのです。

新しい飲み屋を開拓するのもいいでしょう。見知らぬ店に飛び込むのは勇気が要ります。金銭的不安、店内での人間関係の構築……等々。さまざまな感情や思考が頭を駆けめぐることになるでしょう。記憶系の脳番地は、感情系や思考系の脳番地と密接な関係があります。互いに連携することによって、枝ぶりがよりよくなります。感情系、思考系の脳番地を刺激することも大切なのです。

記憶系に限らず、脳は死ぬまで成長し続けます。ですから、トレーニングによって脳を自分流にデザインし直せば、今からでも「なりたい自分」になれると思っています。

医学博士、「脳の学校」代表 加藤俊徳
1961年、新潟県生まれ。昭和大学医学部、同大大学院修了。91年脳機能を光計測するNIRS原理を発見。95年より米ミネソタ大学放射線科MR研究センターで1万人以上の脳画像の分析に従事。2006年脳の学校設立。著書に『脳の強化書』『記憶力の鍛え方』ほか。
(構成=小山唯史 撮影=小原孝博 写真=PIXTA)
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