自分が教えを乞うときは同じ目線で敬語を使い、きちんと頭を下げて話すのは当然の礼儀である。それは社内でも同じことだ。自分が若い社員に何か教えてもらうときは社長室に呼ぶのではなく、各フロアにある打ち合わせ室へ行って話を聞くようにしている。

雑談は時間の無駄という人もいるが、私は前述したように雑談をしていて「これはおもしろい」と頭に残ったことを、新しい仕事や計画に反映したりすることがよくある。時間潰しのための雑談だと考えてはいないのだ。

時間潰しが目的になってしまうのは、相手への愛情が薄いせいだと思う。耳に音が響いているだけで、心で聞いていないのだ。相手の話をおもしろがって聞けるかどうか。そして、おもしろがれるかどうかは好奇心の有無にかかっている。

社内外を問わず、ほかの分野では私より優れた能力を持つ人はたくさんいる。私は全能の神ではないので、さまざまな能力を持つ人から話を聞き、学び続けなくてはならない。「いいとこ伸ばそう、自信を持て」が私の人生標語で、それを私はチームに対してもやっている。人間には苦手なこともたくさんあるが、できないことを悩むよりできることを伸ばしたほうがいい。

話していて「君、それおもしろいね」と私がいうのも、「あなたはその分野に力があるからもっとよく考えてほしい」という意図がある。SNSで「いいね!」ボタンを押されると、反応が返ってきたと嬉しくなってまた発信しようと思うだろう。それと同じことをリアルでやっているわけである。

アサヒグループホールディングス社長 泉谷直木
1948年、京都府生まれ。72年京都産業大学法学部卒業後、アサヒビール入社。広報部長、経営戦略部長などを経て、2003年取締役に就任。06年常務酒類本部長、09年専務。10年3月、アサヒビール社長。アサヒグループの持ち株会社制への移行により11年7月より現職。海外子会社社員と話す機会もあるが、「外国人相手でもすぐに打ち解ける」という。
 
(宮内 健=構成 尾関裕士=撮影)
【関連記事】
あなたの「コミュニケーション能力」1分間診断
世界のエリートは名前を“3回”口に出して確実に覚える
生涯年収4760万円アップにつながる「外見力」の磨き方
出会った人を必ず味方にする「フレーム理論」
表情だけで相手の心を動かせるか