9割の子どもはマニュアル通りにはいかない
(3)子どもを子育てマニュアルの枠にはめない
相手は生身の人間なのだから、コンピューターのように規則的には動きません。子育てのマニュアルである教育書に載っている通りにいく子どもは、全体の1割程度です。
我が家の例でいくと、こんな話があります。
息子が1歳ぐらいの頃、妻が保健センターで開かれた子育てアドバイス会のようなものに参加しました。食事について次のようなことを教えてもらったようです。
「子どもにはプラスチックでなく、あえて割れる食器を使わせてください。落としたら割れる、ということをそこで学びます。根気強くつきあうことが大切です」
早速妻が実践したところ、息子は、5秒で食器を粉砕。さらに、割れたのが楽しくて大喜び。床が、割れた食器と食べ物で惨状となったのは言うまでもありません。食器は、ほどなくプラスチック製に戻りました。食事ごとに食器を割られるのでは、親の負担が大きすぎる、と思えたのです。ただその後、成長の過程で何の問題もなく自然に陶器製の食器を使うようになり、小学生になった今、滅多に落とすことはなくなりました。
保健士さんの言っていたことは、おそらく本当です。実際にそのように子育てをし、うまくいったケースも多かったのでしょう。もしかしたら、多くの子どもはそれでうまくいくのかもしれません。しかし、我が子はとてもではないですが、それができる感じではありませんでした。やり方がその子どもに合っている場合、そうでない場合があるのです。
子育てマニュアルはあくまで一般化された「マニュアル」。とりあえずそうすると上手くいくことがある、という程度にとらえます。自分が今目の前で相手にしているのは、機械で大量生産できる画一的なモノではなく、世界で唯一無二の我が子。当然、対応も臨機応変が正しいです。我が子に合った方法、そして、親である自分に合った方法を適切に選択していく必要があります。
一般のマニュアルにとらわれず、世界でひとつしかない我が子と自分の子育てマニュアルを、ゆったりと作っていきましょう。
(4)「親と子は別人格」という覚悟を持つ
(1)で「言うことをきかせる」という発想を捨てるべきだと書きました。では、親は何を子に伝えるべきでしょう。それは「自分はこう考えている」という、自己開示です。
いわゆる「Iメッセージ」です。
親である「私は」どう考えているのか。決して子どもの「あなたが」どうすべきかではありません。あくまで選択権は、子どもの側にあります。こちらは、より良いと思われる道を提示するだけです。
「私は」どんな家庭にしたいのか。家族としてどうありたいのか。親としてどんな風にあなたと関わっていきたいのか。どんな考えや願いを持っているのか。だから、どんなルールを守って欲しいのか。
そういうことを、きちんと伝えます。楽しい雰囲気で伝えられれば、伝達率はより良いでしょう。
嘘は子どもに見抜かれるので、言わないようにします。
間違っても、親の将来のために子どもを思い通りにしようという自己愛の考えが底にあるようではいけません。必ず見透かされます。それでは、本末転倒です。私の願いはこうだけど、あなたの人生はあなたが決める。親子とはいえ、別の人格を持った一人ずつの人間なのです。そういう一種の線引きというか「覚悟」が必要です。
親子といえど、あくまで別の人間という考えを持って、ゆったりと我が子の成長を見守る姿勢が欲しいところです。