腹腔鏡手術のメリットと課題

 主に内科で行われる内視鏡治療だけでなく、外科で行われる手術でも、低侵襲の治療(体への負担が小さな治療)が実施されている。その代表は腹腔鏡手術で、IA期とIB期の早期胃がんが対象になる。

胃がんの手術は通常、みぞおちからへそあたりまで腹部を切開して行われ、これは開腹手術と呼ばれる。傷口は15~20センチほどである。

一方の腹腔鏡手術は、まず一センチ程度の穴を腹部に5~6カ所あける。その穴から腹腔鏡や手術器具を挿入し、モニターに映し出された腹部内部の映像を見ながら手術を進める。そして、胃の周囲の組織を胃から外して、腹部を5センチほど切開し、そこから胃を引き出して切除し、残った胃と小腸をつなぐ。おなかの中で行うことは、基本的には開腹手術と同じである。

胃がんに対する腹腔鏡手術はまだ標準治療ではなく、臨床試験の位置づけだが、年々増えている。

では、開腹手術と比べて、腹腔鏡手術のメリットはどこにあるのか。都立駒込病院外科の岩崎善毅部長は主に次の4点を挙げる。

(1)手術による傷が小さく、切開部の痛みも比較的小さい。
(2)出血が少ない。
(3)入院期間が短い。
(4)手術後の呼吸機能の回復

 が早い傾向があり、手術後、肺炎になるリスクが低い。

腹腔鏡手術のメリットは多いが、標準治療ではないことに加え、腹腔鏡手術に熟練した医師はまだそれほど多くはない。手術の方法を選択する際は、医療施設や担当医の実施数、得意とする手術法などを確認するとよいだろう。

II~III期の進行がんに関しては、手術後にTS-1(一般名はテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)などの化学療法(抗がん剤治療)が行われるようになってきた。TS-1を服用することで、再発率が下がり、生存率が上がるというデータもあり、今では「TS-1は進行胃がん治療のキードラッグ」(岩崎部長)にもなっている。

問題もある。化学療法は抗がん剤に詳しい腫瘍内科医が行うことが望ましいが、日本ではいまだに外科医が行っているケースが少なくない。薬剤の数が増え、抗がん剤を使った治療法も進歩する中、腫瘍内科医のさらなる増員がまたれている。

胃がんの治療は現在「内視鏡治療」「外科手術」「化学療法」が3本柱だが、これらに「放射線治療」が加わりそうな動きもある。「効果は限定的ですが、放射線治療が今後、胃がん治療の4本目の柱になっていく可能性はある」(岩崎部長)。

また岩崎部長は、胃がんに限らず、がんを早期に発見し、適切な治療を受けるには、開業医などのかかりつけ医を持ち、その医師から専門施設を紹介してもらうシステムを確立することが重要であると話す。

胃がんなどのがん治療は「内科、外科ともに優れ、それらのバランスがとれている施設」(矢作教授)、「各診療科が協力し、チーム医療を行っている施設」(岩崎部長)などで受けることが勧められる。命を預けることになるだけに、セカンドオピニオンも視野に入れつつ、慎重に選択すべきだろう。

※すべて雑誌掲載当時
※ランキングは1607病院のDPCデータを使用。2009年7~12月の6カ月間の退院患者についての治療実績。「―」は10例未満、または分析対象外とされたもの。

(Getty Images=写真 ライヴ・アート=図版作成)
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