年金情報流出でクラウド業界はホクホク
会社側がマイナンバーへの対応に苦慮している折も折、大事件が起きた。日本年金機構の125万件にも及ぶ大量の情報漏えいである。国は企業のセキュリティ体制に対してあれこれ厳しく要求してくるのに、この体たらくである。この流出事件は、1つの教訓を残したと思う。それは、
「サイバーテロなどの事例を見ても、コンピューターへのハッキングは国の機関でさえ防ぎきれない。民間企業がどんなに情報セキュリティーに努めていても、突破される可能性がある。完璧な防止策はない。だから社内の情報システムの中で保管するのは止めた方が良い」
ということではないか。
実際、アメリカや韓国では、他人のナンバーを盗んで、その人に成りすます詐欺事件が多発している。内閣官房のウェブでは「海外の成りすましの事案は、番号のみでの本人確認や、番号に利用制限がなかったことなどが影響したと考えられるため、日本の番号制度では、厳格な本人確認の義務付けや利用範囲の法律での限定などの措置を講じている」と説明しているが、到底安心できるはずがない。
そこで民間企業の間では2つの動きが強まった。
1つ目は、紙の状態のままで金庫の中で保管する方法である。原始的だが、データに比べれば安全性が高い。2つ目は、いわゆるクラウドである。コンピューター会社が用意するクラウドの中でマイナンバーを保管するという仕組みである。情報セキュリティーを徹底したクラウドの中で保管してもらった方が安全だからという判断である。
▼クラウド利用料年間100億円
そんな訳で、大手企業を中心にこぞってクラウドに流れる動きが加速している。そこで、著者はふと思った。ところで、日本全体でこのマイナンバー関連のコストはいくらに及ぶのだろうか?
ちなみに、クラウドの利用料は従業員1人あたり年間1000円前後が多い。日本には5000万人の労働者がいるが、仮に大手中心に1000万人がクラウド上でマイナンバーを保管したらどうなるか?
「1人1000円×1000万人=100億円」である。
計算してみてビックリした。この費用が、今後毎年発生するのだ。
クラウドを提供する会社にとってはホクホクだが、日本経済全体ではどうなのだろうか? クラウドなどというものは、単なる情報システムだから、他の消費に結びつきにくい、つまり経済効果は低いのではないか。
経済対策というものは、言うまでもなく波及効果を狙って行うべきだろう。先ほど列挙したようなマイナンバーの関連のグッズは、拡大再生産につながりにくいモノが多い。
オカネをドブに捨てるような政策は、日本全体のためにならない。