部下の成長を喜ぶのも上司の役割
この「行方不明」の経営者とは、対照的な経営者がいる。
10数年前、経済3団体(当時は「4団体」)のトップだった、大手メーカー(社員数6500人)の、70代前半の会長に「部下育成」をテーマに取材をした。
この会長は40歳前後で役員になり、40代半ばで6500人のトップに立った。その後、20年近くにわたり、社長を務めた。30代の管理職だった頃は、部下と同じ目線に立ち、自分の喜びを次のように伝えていたようだ。
「すごいじゃないか? もう、君は(自分に)追いついているよ」
「今度、~を教えてくれないか? 君ほど、~ができる人はいないよ。みんなに教えてあげてくれよ」
ポイントとしては、次のことを挙げていた。
「成長していることを、部下本人に感じ取らせること。部下は、自分の成長を正確には把握していない。だからこそ、上司が観察していて、部下が成長していることを素直にうれしいと伝えること。子どものようにはしゃぎながら、伝えてもいい。そのほうが、部下たちには伝わりやすい」
取材に同席していた私の上司が、帰りの電車の中で、「耳の痛いところだった」と振り返っていたのが、次のくだりだった。
「成長は、部下と上司がつくるものであり、一緒に喜ぶもの。親は子どもの受験にあそこまで熱心になり、喜び、悲しむことができるのに、なぜ、部下になると、それができなくなるのか……。その喜びや悲しさをみせることなく、次々とリストラをして辞めさせるから、不毛な争いになるんじゃないかな。リストラをするにしろ、会社は社員と向かい合わないといけない。一緒に悲しまないと」