実学ばかり重視する国に明日はない!

内田 樹 氏

これから何が起こるか、だいたい想像がつきます。まず地方の国立大学から定員割れ、募集停止が続出し、いずれ統廃合される。最終的に残るのは、最低のコストで日本中どこでも同じ標準的教育サービスが提供できる「コンビニ型」大学と、文科省がある限りの教育資源を投下する「グローバル競争に勝ち残れる」大学だけでしょう。教育の多様性が失われるだけでなく、子供たちの就学機会そのものが減少する。経済的な格差拡大と同じように、教育資源の分配においても少数の「超富裕層」と圧倒的多数の「貧困層」への二極化が起きるのです。

日本よりも先にグローバル化が進んだ韓国でも、国立大学の地盤沈下が問題化しています。特に人文系の凋落がひどい。最も人気がない学科は韓国文学、韓国語学、韓国史学だそうです。そんなものを学んでも就職先はないし、高い年収も約束されない。学生たちは「実学」系学科に流れ込む。

でも、国立大学が自国の歴史や文化に対する愛着も関心もなく、ひたすら「グローバル資本主義」に自分を最適化させ、高い地位と年収をめざす学生たちの競争と格付けのためだけの場になった国に未来はあるのでしょうか。私が会った韓国の教育者たちはそのことを強く懸念していました。そんな人間ばかりになったら、国に明日はないからです。「次世代を担う成熟した市民」は、自分の共同体に対する強い愛情や帰属意識を持ち、国の制度や文化を支え続ける責任感の持ち主でなければならないからです。