院内学級って知ってる? 病気やケガで入院している子供たちが通う学校なんだ。でも、どんな子も、体は元気なのに、心の元気がなくなるときがある。赤鼻先生は、そんなときほど、勉強したほうがいいと言う。どういう意味なんだろう。

元気でなければ勉強しちゃいけないの?

東京・品川区の昭和大学病院入院棟の最上階に、病院の一室とは思えないカラフルな部屋がある。廊下の壁には色画用紙に書かれた子供たちの詩が張られ、室内には絵本やおもちゃがところ狭しと並んでいる。

院内学級「さいかち学級」。

ここは病室ではなく、入院中の子供たちが学ぶ小さな教室だ。

院内学級というと、長期入院している子供たちの教室をイメージするかもしれない。しかし、さいかち学級の子供たちが教室に通う期間は意外に短い。昭和大学病院小児医療センターの平均入院期間は6日間。入院中、教室に通うのはせいぜい3~5日だ。

ほんの数日なら、無理して入院中に勉強しなくてもいいではないか。

そうした声と戦い続けてきたのが、さいかち学級の副島賢和(そえじままさかず)先生だ。

副島賢和
公立小学校教諭として25年間、東京都内に勤務。2001年東京学芸大学大学院修了。品川区立清水台小学校赴任。2006年より「さいかち学級」担任。2014年4月より昭和大学大学院保健医療学研究科准教授として「さいかち学級」を担当。学校心理士。

副島先生は、ホスピタルクラウン(病院で心のケアをする道化師)としても活動する名物教師。赤い鼻をつけて子供たちと接する姿が注目を集め、日本テレビのドラマ「赤鼻のセンセイ」のモチーフにもなった。

公立小学校の教諭としてさいかち学級の担任を8年間務めてきたが(さいかち学級は病院に隣接する品川区立清水台小学校の一学級)、この春に退職して、現在は昭和大学大学院准教授として関わっている。公立小学校の教諭のままだと異動があるためだ。学校心理士でもある副島先生は、院内学級の目的を次のように語る。

「大人たちは親切心から、『焦る必要はない。元気になってからまた勉強すればいいよ』と言います。でも僕は、元気でなければ勉強しちゃいけないのかと言いたい。病気の子供たちは親やきょうだいに心配や迷惑をかけていることを気にして、自分のことをダメな人間だとか、役に立たない存在と考えがちです。しかし、決してそんなことはない。入院中でも楽しい時間は過ごせるし、新しいことに挑戦することもできます。学習を通して、子供たちにそのことを経験してもらいたいのです」

実際、ケガや病気で入院する子供が負った心の傷は、大人が考えている以上に深いのだという。副島先生は、「入院してくる子供の多くは、感情を失っている」と指摘する。

「I型糖尿病で入院してきた男の子は、血糖値を測るために毎日5~6回、指に針を刺していました。しかめっ面をしていたので『痛いね』と声をかけたら、『痛くないよ、平気だよ』と返してきた。本当は痛くないはずがありません。しかし、男の子はいい患者でいないと周りに迷惑をかけると思っているし、平気だと思わないと自分自身も心のバランスが取れない。そこで自分の感情に蓋ふたをするようになってしまう」

感情は、一種のエネルギーだ。自分の中の感情を無視したり無理に抑えつけようとすれば、生きるエネルギーも失われる。病気を治療するエネルギー、さらに人生を前向きに生きていくエネルギーを高めるためには、「感情を出してもいい」ということをわからせてあげる必要がある。