そのために副島先生が心がけているのは、子供を比べないことだ。
「入院した子供がさいかち学級に来て最初にやるのは、他の子を傷つけることです。直接、叩くわけではありません。他の子が勉強している内容を見て、『簡単じゃん。俺もできるよ』『まだそんなことやってんの?』と言い、自分の優位性を示そうとするのです。他の子より優位に立とうとするのは、自分のポジションを確保したいから。病気の子供たちは、自分の居場所はどこにもないのではないかという不安を抱えています。ポジションを確保したいという気持ちは、その不安の裏返しです。だから、僕は最初に『先生は、あなたたちを比べたりしない』と伝えます。子供たちに、ここは安全で安心なんだと感じさせることが、感情の蓋を開ける第一歩です」
ここが安心できる場所だということが子供に伝わったら、次は「選ぶ」プロセスに入る。今日はクレヨンで絵を描くのか、色鉛筆で描くのか。国語と算数、どちらを先にやるのか。自分がやりたいことを主体的に選ばせるのだ。
「『何でもいい』『先生が選んで』と言う子供は、エネルギーがまだ溜まっていない証拠。その場合は、もっと安全・安心を感じてもらえるように、やり直します。少しずつエネルギーが溜まってくると、『こっちがいい』と言ってくる。ここまでくれば、あと少しです」
エネルギーが溜まってきたかどうかは、子供の話す内容によっても判断が可能だ。傷ついている子は、「あのときはよかった」「あのときに傷ついた」と過去の話をする傾向がある。安心のエネルギーが溜まってくると、しだいに「今、何したい」という今日の話が出てきて、最終的には「退院したら、これをやりたい」「将来はこうなりたい」と未来の話ができるようになる。
もちろん、子供たちが描く未来が常に明るいものであるとは限らない。学校に戻ったときのことを想像して、「友達、私のこと忘れちゃってるかな」と不安げに話す子もいる。
「それでもいいんです。不安も、感情の1つ。不安な気持ちを言葉にしたということは、自分の感情と向き合えているということですから、一歩前進です。もともと感情に善し悪しはありません。人は悲しいと感じることができるから他の人に優しくできるし、悔しいと感じるから挑戦する気持ちが湧いてきます。たとえネガティブな感情でも、それに蓋をせずに表現できることが子供の発達にとって大事なのです」