なぜなら、1ユーロ=1.20CHF前後から、0.86CHFになる過程で、本来なら市場に一定数いるはずの「CHFの売り手」が、ほとんど消えてしまったからだ。CHFの無制限売り介入を中止するというサプライズニュースで、CHFの値上がり必定と見た市場参加者が、CHFの売り注文を引っ込めた。売り手がいなければ、新たな売り手が出てくるまで、CHFは上昇せざるをえなくなる。そのため、レートが大幅にCHF高方向に飛んでしまった。

売り手がいない状態で、瞬時にレートが大幅に動いてしまうと、いくらロスカット注文を入れていたとしても、その注文は執行されない。「CHFは下落する」というシナリオに基づいてCHFを売っていた投資家たちは、CHFが上昇する中でCHFを買い戻し、CHFの売りポジションを清算しようと試みたが、ようやく注文が約定されたときのレートは、ロスカットのレベルを大きく超えたところまでスリップしていた。

当然、証拠金の額を超えた損失については、「追証(おいしょう)」(注4)といって投資家が負担する。

今回、「ロスカットが必ずしもリスクマネジメントに役立つとは限らない」ことが判明した。ブラックスワン的なマーケットの動きから財産を守るには、自分が取れるリスク許容度を超えたポジションは持たないに尽きる。

注1 黒い白鳥:事前にほとんど予想できず、起きたときの衝撃が大きい事象
注2 ポジション:決済して利益や損失が確定する前の残高
注3 含み損:売買成立前に起きる損失
注4 追証:追加保証金