食料自給率にこだわるのは大きな誤り

「自由化」「選択と集中」「イノベーション」というオランダの農業改革のキーワードに照らして考えれば、「イノベーション」についてはITやハイテクを駆使した農業への取り組みは日本でもすでに始まっている。ただし、ハイテクの植物工場やオランダ型の施設園芸が増えてハードとソフトの導入が進んでも、経営力のある農業法人の参入・育成や研究開発部門のクラスター化、流通環境の整備など農業関連サービスの市場が広がらなければ農業の活性化にはつながらない。

「自由化」と「選択と集中」についていえば、オランダが行ったような農業保護の廃止や農地の集約化、作物の選択と集中などの施策を日本で実現するのは非常に難しい。「自由化」や「選択と集中」を阻み、日本の農政の決定的な視野狭窄を生み出しているのは、コメ農業への過保護である。前回指摘したようにコメの需要は著しく減少していて、国内農家にとっても、世界的に見てもうまみのあるマーケットではなくなっている。しかしながら、土地問題や選挙制度と密接にかかわりのあるコメ問題に手を付けると大きな政治問題になってしまうために、政治はこれを聖域化して避け続けてきた。兼業農家に何をさせるのか、明確な戦略を持たないまま“票田”として保護してきたために、彼らをアグリビジネス化することができなかったのだ。

クオリティ型農業を目指すなら、農業政策の本丸は野菜、果物、花卉、畜産などのクオリティ型の品目に移していくことだ。ちなみにコメの過保護の後ろ盾にもなってきた「食料自給率」にこだわるのは大きな誤りだ。「いざというときのために食料自給率を高めよ」という食料安全保障の議論ぐらい無意味なものはない。どれだけ自給率を高めても、日本は石油が入ってこなくなっただけでコンバインも灌漑用ポンプも動かなくなる。農家の平均年齢は65歳以上。つまり日本の農業は完全停止してしまうのだ。

大事なのは農業を成長産業にして外貨を稼ぐこと。競争力のある農産物を輸入して、結果的に自給率が下がっても、輸出が増えていけば問題はない。ちなみに日本の穀物自給率は28%(2011年)だが、オランダは(農産物輸出大国ではあるが)その半分の14%しかない。「国民に廉価で良質な食料を届けることが正しい政策」というのが、日本が学ぶべき第一歩である。